北欧3カ国〜プラス・スイス見聞録
北海道市長会事務局次長 今井 孝司

はじめに
 2003年10月17日から29日まで、延べ13日間にわたりデンマーク、フィンランド、スウェーデンの北欧3カ国並びにスイスの都市行政に関わる視察調査団に参加する機会をいただいた。
 4つの調査都市及びそれぞれの国の首都等を訪問視察したが、いずれの都市も自然が豊かで歴史と伝統に培われた重厚さを感ずるとともに、その中にあって時代に対応するための新しい道を切り開く努力が続けられていることが感じられたところである。
 以下、訪問国で特に感じた点などについて、独断と偏見がない交ぜになった見聞の一端を記述したい。

≪フィンランド≫
 往路成田からコペンハーゲンに至る機中から眼下に見下ろすスカンジナビアの大地は、数多の湖沼、フィヨルド、多島海など氷河期の荒々しい爪痕を今に残す(自然の造形の妙を感じさせる)壮大な景観にまず圧倒された。
 このことは、コペンハーゲンからヘルシンキへの機中から、そしてヘルシンキからヴァイキングラインでストックホルムに向かう船上からも感ぜられたが、一方で、氷河に削られた岩盤の上にわずかな表土が存在する極めてやせた土地であることが推測された。
 エスポー市において少子化対策及び高齢者福祉施策について視察調査をしたが、一言で表現すれば、フィンランドに限らず北欧諸国の歴史に培われた福祉に対する先進性と、それを支える高額の税負担(所得税30%、消費税22%)に対する国民合意の賜であると感じられた。
 また、エスポー市は、首都ヘルシンキから22qほど離れたいわゆるベットタウンとして発展してきた比較的若い街であるが、近年にいたり人口流入に伴って、地域間でサービスに格差が顕著となってきたため、将来を見すえた介護・医療にかかわる新たな体制の構築が必要となり、現在、組織改革を推進中とのことであった。
 ひるがえって我が国の福祉施策も、近年急速に整備がはかられ、ほぼ欧米と肩を並べる水準に到達しつつあると考えられるが、国、地方の極めて厳しい財政状況の下で今後一層の福祉推進をはかる場合、国民合意を得つつ財源対策を並行して検討する必要性を感じたところである。

≪スウェーデン≫
 首都ストックホルムは、スウェーデンでの調査地カルマル市への経由地として短時間の視察であったが、バルト海とメーラレン湖に囲まれた島々の上に造られた極めて美しく見事な街であった。
 なかでも、小高い丘(フィアール・ガータン)からメーラレン湖を挟んで、尖塔をもった建築物を俯瞰するロケーションは圧巻であり、また、ノーベル賞授賞祝賀会場となる市庁舎、王宮や城塞、さらには数多くの教会など、それぞれの建物が時代時代の様々な様式を取り入れながらも、違和感なく歴史と伝統の重みや落ち着いた雰囲気、はたまた華麗さと優雅さを感じさせるものであった。
 ストックホルムから列車で約400q南に位置するカルマル市に向かう途中、左右の車窓に大小の湖沼が次々に現れ目を楽しませてくれたが、一方でフィンランドと同様に岩だらけの大地であり立木も細く、厳しく苛酷な自然環境にあることを実感した。
 カルマル市を訪問し市長から話しをお聞きしたが、今年に入って日本から既に600人を超える調査団が訪れ、環境問題や高齢者対策等について調査視察を行っている旨話があった。
 また、市長は非常に日本びいきの方であり今年6月に日本の6都市を訪れ、カルマルの環境対策について講演を行ったとのことであり、来年(2004年)も訪日する予定とのことであった。
 カルマル市は、湖と森に囲まれたスウェーデンの南東部に位置し、古くから要塞都市、貿易都市として発展し、街並みのそこここに歴史的建造物が林立し中世の面影を残している街であるが、現在の市長のもとで約6万人の街を活性化すべく環境保全と調和した持続可能な経済開発を目指し、産学官協働によるサイエンスパーク構想の推進に意欲的に取り組んでいることが印象に残った。

≪デンマーク≫
 今回の視察調査もここで中日となり、カルマル市から三番目の調査地デンマークのカルンボー市に向け、再び列車による国境越えの約250q、コペンハーゲンへの旅程となった。 車窓からの風景は、徐々に南に下がりつつあることから林層も変化し、心地よい気候に感じられた。
 コペンハーゲンに到着し遅めの昼食後、市内視察(クリスチャンボー宮殿、アマリエンボー宮殿など)を行ったが、人気の名所の一つ「人魚姫の像」が心ない輩に破壊され影も形もなくなっていたこと(現在、海中から引き上げ修復中との説明があった。)、またすぐ目の前に位置する「ゲフィオンの噴水」が改修整備中であったことは、些かがっかりと言うよりはびっくりであった。
 もう一つ最大のがっかり・がっくりは、この周辺が堀と石垣に囲まれた古い城塞であることには気がついていたが、この後、スイスに向かう機内で広げたコペンハーゲンの地図を見て、きれいに保存されている星形城郭、つまり函館の五稜郭そっくりそのままの絵を発見したことである。
 星形城郭は、オランダもしくはフランスにルーツがあり、ヨーロッパ諸国はもとよりアフリカや南北アメリカ、そして日本など世界各国へと伝播したものであり、特に近世、砲術が発達した時期において、ヨーロッパの戦略的要衝としての歴史を有する都市には五稜に限らず六稜、八稜形など多様な星形城郭が存在しており、あたらその原型に近い城郭を目前にしながら勉強する機会を逃したことは、本籍地函館人としてまことに残念至極であった。
 翌日、調査地カルンボー市に向けシェラン島の東端から西端に約100qをバスで横断した。
 どこまでもなだらかな起伏の少ない大地の途中は、田園の中に家屋が点在するたんたんとした風景が続いていた。
 カルンボー市での視察調査の結果は別に詳述されているが、地球環境の保全と廃棄物の処理を複合的・重層的に考えた産業シンバイオシスと称する一連の取り組み(なぜか火力発電に石炭を使用していること以外は)は、我が国においても大いに参考とすべき先進的事例であると感じたところである。

≪スイス≫
 10月25日、最後の調査地ルガノ市に向かうため早朝5時起床で、コペンハーゲンから空路スイスへと向かった。
 眼下にドイツ平原、そして純白に輝くアルプスの山並みを見下ろしながらチューリッヒ空港に降り立ち、直ちにグリンデルワルドに向け6時間のバスの旅に出発。途中、昼食休憩のため首都ベルンに立ち寄ったが、この街は、900年以上の歴史を有し、随所に中世の面影を残すヨーロッパでも古い都市の一つで街全体がユネスコの世界遺産に指定されており、三角屋根の建物が軒を連ねる趣のある街並みが印象的であった。
 再びバスでアルプスの懐めがけて、純白の雪をいただいた山また山の風景や、時折真っ青に澄んだ湖が現れる中を無事アイガーの麓グリンデルワルドに到着した。
 翌26日、またとない快晴、絶好の日和の中登山列車でユングフラウヨッホへと向かったが、高みに行くほどに頭や身体が大地に押しつけられるように重く感じられ、息切れがひどくなったのには些かならず戸惑ったが、間もなく慣れて足手まといにならずに済みほっと一安心。何はともあれ、頂上からのアイガーやユングフラウなど4,000m級の山々やアレッチ氷河の絶景、展望施設のすばらしさを堪能、ワインで乾杯し、しばし至福の時を体験させて貰った。
 27日は、いよいよ最後の調査地ルガノ市を訪問し、市長、副市長ほか市の幹部の歓迎を受けた。
 市長から人口3万人を擁するルガノ市は、71もの銀行とこれに関連する公証人事務や不動産業の機関、54か所のホテルなどがあり、スイス第3の経済都市であるが、現在ルガノを中心に周辺9町村を2004年に合併し、人口5万2千人のスイス国内9番目の都市を目指している旨、説明があった。
 また、ルガノ市は、スイス連邦の最南端、イタリアと国境を接するティチーノ州にあり、スイス国内で7%を占めるイタリア語圏の中心地として、スイスの中でも全ての面でイタリアの色彩が濃く、街も人々も陽気なラテン的雰囲気に包まれている。地勢としては、静かな湖面が印象的な美しいルガノ湖に面し、坂が多く、また、地中海性の温暖な気候に恵まれ「スイスのリオデジャネイロ」と形容される風光明媚な街であり、スイス国内及びイタリアの観光リゾート地として発展してきている。
 市の計画としてコンベンションホールを中核にカジノや充実したホテル群を活かし国際的な観光コンベンション都市を目指した街づくりを推進中であるなど、懇切丁寧な説明があった。

おわりに
 このたびの視察調査団は、添乗の田中氏を含め7名と小編成であったため、チームワークもよく、また全員が元気に予定されたスケジュールを消化でき、充実した時間を共有することができたことに感謝したい。
 また、今回の旅行で気がついたことは、以前の訪欧時などと比べて総体的に国境という感覚が薄くなってきていることである。
 特に今回の訪問国が、北欧という歴史的、地理的に連帯感が強い地域であり、かつ、EU(欧州連合)域内のシェンゲン協定による効果が顕著に表れてきたことが考えられる。
 このことは、国境間で税率の低い国への買い物や国境を越えての通勤等を可能とするなど、人・物・金の流動・流通の一大革命をもたらしつつあることが伺われる。
 なお、EUに未加盟のスイスからバスでイタリアの国境を越える際の検問所でもパスポートチェックはなく、ヨーロッパでは我々が想像している以上にグローバル化やボーダーレス化が進んできているのではと思われる。
 ただし、イタリアのミラノからコペンハーゲンに向け出発する際の空港でのチェックだけは、テロ防止対策のためと思われるがことのほか厳しく、自動小銃を携帯した警官と警察犬(麻薬犬?)には驚かされたところである。あまりの厳しさにビビッタ訳ではないが、金属探知器を通る際、小銭入、ライターはもとよりベルト、眼鏡、あげくに腕時計まではずすはめになりウッカリ床に落とし、文字盤のガラスにひびが入ってしまうという失態を演じてしまった。
 おわりに、本会の海外都市行政視察事業も今回で27回の歴史を重ね、これまで全道各市の市長、助役あるいは部長級の参加の下、その時代時代の重要課題等について先進都市を訪問調査し、一定の成果を挙げてきたところであり、今後も本事業が回を重ね各市発展のため寄与していくことを期待し、締めくくりとしたい。