カルンボー市
(デンマーク)
10月24日(金) 快晴
登 別 市 道林  博
深 川 市 伊東 幸次

◆主要研修課題〜環境保全対策について

1.はじめに
 デンマークは、ヨーロッパ大陸と陸続きでドイツと国境を接している。面積は43,000ku(グリーンランド・フェロ諸島を除く。)で日本の約8分の1、北海道よりも小さく九州よりやや広いぐらいである。本土は、北緯57度45分から54度33分にあり、サハリンより北に位置している。
 しかし、冬の寒さは思ったほど厳しくなく、年間の平均気温は7.7℃、冬の最低気温は0.5℃と暖かい。その理由はメキシコ暖流がノルウェーの西海岸まで流れているからだそうである。雨は年間を通して降るが、降水量は年間712mmと少なく、雪も25日ぐらいしか降らない。
 人口は、約514万人。子供を非常に大切にし、アジア系の養子を貰っている人もいるようである。国土は平坦で最高峰は173m。
 大半はかつて氷河に覆われており、氷河が運んできた氷堆積が表土に残っているため、耕作の障害になっているとのことであった。

(1)デンマークの農業
 デンマークは、酪農のイメージが強く国土の3分の1は農用地。酪農が盛んであり、バター、チーズ、鶏卵は世界有数の輸出国である。また、デンマークはEU内でも対日貿易は唯一の黒字国である。

(2)デンマークの産業
 農業以外の産業では食品工業を中心に化学、金属加工、機械などの工業が発達している。帰国した翌日の10月30日の新聞に目を通すと、スイスのジュネーブで開かれた世界の指導者が参加するダボス会議の主催する“世界経済フォーラム”で発表した今年の競争力報告によると、対象102カ国中、今回、訪問した国の順位は、フィンランドが1位、スウェーデン3位、デンマーク4位、スイス7位となっており、ちなみに日本は11位、米国は2位となっていた。
 この順位は、持続的な成長を可能にする中長期的競争力を技術力の強さ(特に技術革新が寄与)、マクロ経済、公的機関部門の効率、質を指標化して比較したものであり、環境政策に力を入れている北欧三国が上位を占めたのも至極当然の気がした。
 造船業もバイキング時代からの技術の積み重ねで今なお盛んである。また、製品として馴染み深い物は、玩具のレゴや木工家具、陶器のロイヤルコペンハーゲンがあり、カルスバークなどのビールが最も有名。年間1人当たりのビールの消費量は、日本の4〜5倍にもなる。

(3)デンマークの生活
 デンマークはヨーロッパ最古の立憲君主国であり、現在は「マルグレーテ2世」が女王である。日本人が知っているデンマーク人というと、まず童話作家のアンデルセンが挙げられるが、彼はフュン島のオーデンセの出身でその足跡はコペンハーゲンを始めとするまちに溢れており、コペンハーゲンにある「人魚姫の像」を訪れる人は、後を立たないという。
 デンマークは福祉国家としても有名で税金は50%を上回るが、医療費、教育費はただであり、学生には奨学金が与えられている。
 家庭には、セントラルヒーティングの配管が行き渡りどこでもお湯が出る。また、早く退職しても年金が給付される。(大変うらやましい!!)

2.デンマークの環境政策
 人類が快適・便利さと物質的豊かさを追求した大量生産社会システムは、地球規模のさまざまな資源の枯渇をもたらすと同時に地球温暖化問題や酸性雨、オゾン層破壊、森林資源の減少、海洋汚染をもたらした。
 また、身近なゴミ問題は、ダイオキシン、環境ホルモンを通じて人間の存在そのものが危ぶまれてきている。
 私達が21世紀のライフスタイルや消費生活を考えるとき、その基本にこうした環境問題やそれをめぐる社会システムの展開を図ることは喫緊の課題である。環境問題の先進国であるデンマークの取り組みについてその一端をご紹介する。

(1)環境問題を重視する背景
 デンマークを始めとする北欧諸国の環境意識が高いのは、北欧がオゾン層破壊や酸性雨の被害を一番受けやすいことにあるからで、フロンによるオゾン層破壊で紫外線が地上に照射する度合いが増えるとメラニン色素の少ない北欧の人たちは皮膚がんや白内障にかかりやすい。
 特に、北極に近い地域では紫外線の照射量が多く、それだけ被害者が多くなるためオゾン層の破壊は、北欧の人たちにとっては深刻な健康問題なのである。
 私はかねてよりデンマークでは、どうして環境問題に逃げることなく真っ向から立ち向かい、しかも数学の公理のように道理にかなった政策を推進することが何故できるのだろうかと疑問を持っていた。上述した内容もその一つの要因に挙げられるが、どうやら教育システムにその根幹的要因があるのではないかと思っている。

(2)積極的な行動を促す人間形成を図る国民高等学校
 デンマークの環境対策が前進をみたのは、社会連帯と民主主義によるものといわれるが、その源となっているのが、フォルケホイスコーレ(国民高等学校と訳されている)の存在である。この国民高等学校は、デンマークで150年ほど前から始まった自由な学校で、その言葉は「民衆(国民の大学)」を意味し、現在、全国で約100校を数え世界にも広がっているとのことである。
 17歳半以上なら誰でも学ぶことができ試験も無く、資格も与えず、全寮制で教師と学生が共同生活をして学び、カリキュラムは自由で国から助成金を受けても国の干渉のない私立の学校である。
 この学校は、近代デンマーク精神の父と言われている、NFSグルントヴィによって構想された。その自由と人間解放を目指す精神ゆえに「生のための学校」とも言われ、今日のデンマークを築く原動力になったと称されている。自由に何事にもチャレンジするデンマーク人の行動力は、こうした背景や教育などから育まれているようである。
 国民学校の教師であったポール・ラ・クールは、1891年から風力発電の開発に取り組み、デンマーク風力発電研究の元祖といわれている。また、学校の電力供給用として、教師と生徒が一緒になって小型風車を製造した国民高等学校がたくさんあるとのことである。大事なことは、「どんなふうに受け取り、消化したか」ということで、「他との比較ではない」ということ。更に大事なのは、人と人との会話であり、生徒各自の体験をお互いに自分の経験のプラスにしようということ。ここで学ぶことは、それぞれの人たちが自分の状況にあって、勇気を持ち、新しい課題に向かっていく姿勢を持たせるための刺激を与えること。
 これらの考えがデンマーク社会に根付いていることは、何とも羨ましい限りである。

(3)環境政策に対する基本的な姿勢
 デンマークの環境に対する基本的な姿勢があらゆる状況に精通し、貫かれているということである。
 すなわち、デンマークの環境政策は、部分的政策でなく福祉国家全体の諸政策を貫く包括的、総合的なものであり、そこでは自然保護やゴミ問題を考える場合にそれだけで仕事するのではなく、経済活動や社会活動の総体を環境の視点から取り組むことが企図されている。
 こうした環境政策は、理念を意味するのではなく、問題の生じる原因を根本から除去する予防的対策を実際に、しかも本気で目指し、道理を総体として現実化している。以下、取り組みを紹介する。

◎ コペンハーゲンでは、大量の車で渋滞する公共交通の問題に関して都市の利便さを景観や住環境と合わせて考え、自家用車を必要としないまちづくりがなされている。
  自転車道を整備して自転車の利用を促進し、駐車に高額な料金を課すなど改善を図ってきた。
◎ エネルギー効率の高度化と化石燃料に代わる開発に取り組み、危険な原子力発電所は造られていない。
◎ エネルギー開発は、技術レベルだけでなく、産業組織の社会化に取り組んでおり、あとで紹介するシェラン島北西部のカルンボー市では産業の共生が行われている。
  地域の民間及び公共セクターなどのさまざまな企業や個人が水や熱、産業廃棄物などを資源エネルギーとして循環させて、相互に利用しあうという画期的産業共生システムが作られ、世界から注目されている。
◎ デンマークには、自動販売機が少ないだけでなく、缶入りの飲料が全く無く、ボトル入り飲料が多く使われている。
  メーカーにはボトル管理が義務付けられ、100%近いリサイクル率となっている。

(4)エネルギー政策
@取り組みの経緯

 デンマークのエネルギー政策は、1973年の第1次石油ショック当時、全エネルギー供給量に占める輸入石油の割合は89%、そのうち90%以上は中近東からの輸入であった。この頃は我が国も同様のエネルギーの状況であった。
 1976年にデンマーク政府は、伸び続ける石油輸入に対し、15基の原子力代替プラン「EP76」を公表した。しかし、OOA(環境NGOの原子力発電情報組織)は、既に政府の原子力発電推進準備と並行して原子力の必要性及び代替案調査研究を行い、政府が公表した半年後に原発のないエネルギーシナリオ「AE76」を提示し、国民の大きな支持を得た。
 その内容は、政府が20年間に5割近いエネルギー需要増大を見込んだのに対し、石油削減量見直しを政府と同程度に見積もりつつも“原子力の代替案”として、すべての石油火力発電等を石炭火力に変えるなどエネルギーの効率化と天然ガスなどのエネルギー資源の多様化を図った。
 それに加えエネルギー利用効率の高いコージエネレーション(熱と電気の併給)の普及に取り組み地域暖房には、コージエネレーションの促進など(1972年の29%から88年には55%まで向上)小規模分散型のエネルギー技術の導入拡大を示唆する内容であった。
 1985年、デンマーク議会は、正式に原子力計画を放棄することを決議し、ここに原子力なきエネルギー政策が確立した。
 参考までに、1976年にデンマーク政府が省エネを目的とするエネルギー供給の安全確保のための取り組みとして発表した「デンマークエネルギー」の主な内容は、次のとおりである。
・ 輸入依存を減らすため、北海で自国の油・天然ガスの探査を開始
・ 発電余熱と天然ガスを利用した給湯計画の実施。エネルギー効率の高いコージェネレーションの普及
・ 補助金制度を導入した省エネの奨励
・ エネルギー税の導入

A風力発電
 1980年にはゼロだった風力発電機の数は、91年末には、3,200基、42万kwと急増した。
さらに、1996年に発表されたデンマークのエネルギー政策「エネルギー21」では、大胆な自然エネルギーの導入を目指した。そこに描かれた2005年までに150万kw風力発電という目標は1999年に達成し、現在、2003年までに550万kwの風力発電を目標とし、中心に洋上風力発電を掲げている。
 2002年の風力発電量を国別に見ると、ドイツ1,200万kw、スペイン483万kw、米国469万kw、デンマーク288万kw、インド170万kw順になっている。ちなみに日本は42万kwと非常に少ない状況で中国47万kwを下回っている。
 また、デンマークは世界の風力発電機市場の5割を占め、現在、世界最大(2,000kw×80基)の洋上風力発電所の建設を進め、既に設置工事を終え、発電調整が行われている。
 参考までに、風力発電だけで既に二酸化炭素削減目標値の約40%を削減している。

Bエネルギー自給率の推移
 デンマークのエネルギー自給率は、1996年に88%、1997年には100%に達し、1998年からはエネルギーの輸出国となっている。その量は年々伸びている。電力の輸出先は、主にドイツ、ノルウェーで、特にノルウェーの電力供給は水力に頼っているので、降水量が少なく電力が不足する時期は、不足分をデンマークが供給している。

   自給率の推移(単位:%)
96年 97年 98年 99年 00年
88 100 102 118 138

 デンマークのエネルギー自給率の上昇は、北海油田からの石油と天然ガスの供給と再生エネルギーの開発、導入に力を入れてきたことによるものである。

3.カルンボー市の概要
 カルンボー市は、デンマークの東部西シェラ・べスツーランド州北部の港町で人口約20,000人。シェラン島北西部、カルンボーフィヨルドの湾奥に位置し、コペンハーゲンから車で1時間半のところにある。街の中心部には、12世紀に建設の5つの塔を持つ教会がそびえ、16〜17世紀の木造の民家が多くある。
 カルンボー市は、30年前から積極的に企業誘致を行ってきており、進出した企業が利益を出すためには、どのような企業活動を行ったらよいかなど、企業間の積極的な話し合いが持たれている。
 環境問題にとって最大の問題は、経済成長との関係であるが、この問題解決を図るために企業活動から生じる「廃棄物」を単に処理するのではなく、それを必要としているところに流れていく構造ができれば、資源の活用度は高まり、再利用へと向かう。
 即ち、資源循環型のシステムにすることであり、これにより使用資源の総量削減や環境負荷低減にもつながることにもなることから、カルンボー市では、既に産業シンバイオシスの考えのもとに、エミッション・バリューチェーンが構築されている。

4.産業シンバイオシス
 シンバイオシスという言葉は、生物学からきた言葉で、異種の生物がさまざまな相互利益関係をもって共に生きていくことを言うが、カルンボー市の産業シンバイオシスは約30年以上前の1970年代から取り組んでいる。
 産業シンバイオシスとは、企業活動から排出される副産物を「廃棄物」として処理するのではなく、副産物を相互に交換しあっている企業ネットワークの名称で、一つの企業の副産物は別の企業にとっては貴重な原料となるため、このような企業ネットワークを結んでいるのである。
 30〜40年前から産業共生による副産物の資源循環型のプロジェクトについて、企業は積極的に参加した。このシンバイオシスが成功を収めたのは、各企業間の協力によるものであり、成功を収めた理由の一つとして、はじめから大きな計画を持たないで個々の企業関係を基に開発がなされたこと。二つ目として学術的な理論的なものとしてあったわけでなく簡単に利益を求めることから始まったことが挙げられる。
 この産業シンバイオシスには、色々な企業が共同の経済的利益を求めて、4社から出発したが、現在、カルンボー市の産業シンバイオシスのネットワークに参加している企業は
 @ アスネス石炭火力発電所
 A ジプロック社(石膏ボード製造)
 B ノボノルディスク社(製薬会社)
 C A・Sバイオテクニスクヨードレンス(土壌改善)
 D スタットオイル精油所
 E カルンボー市役所
 これら企業等の供給、受給の関係は次ページのとおりである。

企  業  等 供 給 受  給  先
A アスネス石炭火力発電所蒸気製薬工場・精油所
石膏石膏ボード工場
石炭灰セメント会社(外部)
温水魚の養殖場、カルンボー市
排水再利用貯水池を経由して発電所に循環
B スタットオイル精油所硫黄化学肥料産業(外部)
ガス火力発電所、石膏ボード工場
冷却水再利用貯水池を経由して火力発電所
処理済み排水火力発電所
C ノボノルディスク社
 (製薬)
イースト菌
飼料
農業
バイオマス農業
排水カルンボー市役所
D ジプロック社
 (石膏ボード)
火力発電所の石膏と製油所のガス
E A・Sバイオテクニス
  クヨードレンス
 (土壌改善)
カルンボー市の汚泥
F カルンボー市温水地域暖房に利用
汚泥土壌改良会社
※ 産業シンバイオシスを内部シンバイオシス(5つの企業とカルンボー市)と外部シンバイオシス(化学肥料産業)に分類している。

 これらの関係を分かりやすく図で示すと次のとおりである。

関係図

<主な特徴と成果>
水の状況  地下水を利用しているが、水量が十分でないことから、近くの湖からパイプラインを自前で引いて取水し利用している。
魚の養殖  マスは水温が高いと繁殖しやすいことから、温水を再利用してマスを年間250トンほど養殖し、日本に輸出している。
カルンボー市の地域暖房  カルンボー市が火力発電所から出る温水の供給を受け、市が設置したパイプラインを通して、地域の5,000世帯に暖房として供給し、使用料を徴収している。
飼料、肥料  製薬工場から出るスラグは、バイオマスの技術を使って家畜の飼料を製造し、豚80万頭を飼育している。なお、肥料は無料で農業者に提供されている。
ゴミのリサイクル  コペンハーゲン市等から出る家庭ゴミや産業廃棄物は、約88%リサイクルしている。
インシュリンの生産  ノボノルディスク社は、日本にもあるが、近郊の養豚農家と連携して、世界のインシュリンの50%を生産している。
再利用貯水池と水の節約  貯水池は20万トンの容量があり、ここでの水は何回も利用しているので、これにより年間210万トンの節約となっている。また、工場の廃水を利用することにより120万トンの節約となっている。
オイルの節約 蒸気の利用によりオイル2万klが節約になっている。
収益 このプロジェクトによる収益は、これまで9,000万ドルに上っている。
 以上、産業シンバイオシスには、多くの利点があるが、要約すると次のことが言えると思う。
 1.副産物の再利用〜企業の副産物は、他の企業にとっては有効な資源(原料)になる。
 2.再利用による一次資源の節減〜水、石炭、石油。
 3.環境負荷の軽減〜二酸化炭素、二酸化窒素、工業廃水の排出量を減らす。
 4.エネルギーの有効利用〜排出ガスはエネルギー生産のために活用される。
 カルンボー市の産業シンバイオシスは、世界唯一のシステムで世界の注目を集めており、日本の国連大学でも過去に二度ほどプレゼンテーションが行われている。

<産業シンバイオシスの成功への条件>
・パートナーは目的が違う企業であること。
・各工場は、パイプラインなど等の費用負担の観点から、その地域からあまり離れていないこと。
・パートナーの理念や事業の知識を理解し、副産物について互いに良く認識されていること。
・協力してやるというボランティア精神があること。
・副産物を利活用するための研究施設も必要であること。
・やり方についての特別規定を設けないで、あくまでも自発的な契約によること。
・パートナーを増やすことが産業の共生に繋がること。
・この産業シンバイオシスのやり方として、
  @ スタートの時点から加わること。
  A 他の国の確立したシステムを利用すること。

5.おわりに
 今回の視察の目的であるデンマークの環境保全対策については、私にとって頭を鋼鉄で殴られたようなショックを受けた。
 その最も大きな理由としては、
○ これ程までに環境に対して徹底した考えの下に対策を講じていること。
○ 環境に対する哲学が諸政策を貫いていること。
○ 人間を大事にした思想が全体に溢れていること。
○ 企業が非常に協力的であること。
等々であるが、何よりもデンマークには「環境文化」が根付いていることであった。
 現在の我が国は大量の物質に支えられ成り立っており、廃棄物問題の根本には、大量生産、大量消費、大量廃棄型の事業活動やライフスタイルがある。
 平成12年度の我が国の物質収支は、社会経済活動に18億トンに及ぶ自然界からの資源採取を含め、約21.3億トン(総物質投入量)の資源が国内外から投入され、廃棄物として処分されるもののうち資源として再利用されているのは約2.2億トンで、総物質投入量の約1割程度にしか過ぎない。
 国土の狭い我が国において腰を据えた資源循環社会の構築は、焦眉の急である。
「21世紀は環境の時代」であり、地域社会から始まる持続可能な社会への変革が求められている。