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◆主要研修課題〜コンベンション・観光振興について 1.はじめに 明瞭な四季・雄大な自然や豊富な資源・味覚等の優位性を持つ北海道観光は、観光ニーズの多様化に対応した観光基盤の整備が進み、体験型を始めとした新たな観光スポットが増加している。 この状況の中にあって、今後の観光を進めるには、自然環境保全に配慮し、景観・遊・食などの魅力が楽しめ、交通アクセスや安全と快適な環境等ハードとソフト両面の受入れ体制の整備を進め、通年観光の促進と地域の自然資源を活かした個性豊かな魅力ある観光地づくりを目指すと共に、国内外に対して、積極的な宣伝・誘致活動の展開や、情報提供体制づくり等が必要とされている。 このような時期に、世界的に魅力のある 「スイスの観光」は如何に進められているのかを現地に学ぶ機会を得たことに感謝し以下の報告とする。 2.スイスの概要 はじめに、雄大なアルプスの峰々・緑の絨毯と美しい湖、歴史を偲ばせる街並みと建築物等々日本の九州ほどしかない小さな国土で、「自然の恵みと歴史の重み」を充分活かしている国「スイス」の概要について述べることにする。 スイス連邦共和国は、ヨーロッパの中央部(北緯45度付近)に位置し、国土の約60%が山岳地帯で占められ、標高は最高地点のデュフール峰(4,634m)・最低地点のマッジョーレ湖(193m)で4,441mの標高差がある。 気候は緯度の割に暖かく湿度は少ないが山岳部が多いため日中と夜の温度差が大きい。 なお、スイスの国土・地理・人口等は次のとおりである。 【スイスの国土・地理】
宗教はキリスト教が多く、ローマカトリック(46%)とプロテスタント(40%)が二分している。 言葉は連邦制をとっているため地域によって4つの国語(公用語)があり、ドイツ語を母語とする人が63%、フランス語が20%、イタリア語が7%、その他が10%という多国語国家であるが、スイス全体を通して英語を話す人が多く旅行者には特に不自由さは感じない。 産業は「通年観光」と保護政策がとられている「酪農を中心とした農業」、時計や工作機械など100万人以上の就業者から成る「精密機械工業」が発達しており、スイス経済の基盤を支えている。 また、世界の金融市場に確固たる基盤を支えている銀行も多く、国民1,600人につき1つの銀行があり、通貨はEUに加盟していないためユーロではなくスイスフランが使われているが、現在最も安定している通貨といわれている。 【スイス連邦と地方行政】 永世中立国家のスイス連邦は、民主自治体の州(カントン20州と6半州)から成り、連邦政府・カントン(州)・コミューン(市町村)の3つが国の基礎になっている。 =カントン(州)= 「立法機関」は、住民の直接選挙で選出される一院制の州議会と 年一回開かれる州民集会がある。 「行政機関」は、州政府が行ない5〜9人の参事の合議制で意志決定し行なわれており、行政組織としては参事が各部を担当し進められている。 「司法機関」は、各州独自の機関を持っている。 =コミューン(市町村)= スイスには、大小様々な3,020もの市町村があり、これは州の公法に基づく団体で、州法により規程され一定の権限が与えられているが、司法権が無く立法権に対して行政権が強いという特徴がある。 3.ザンクトガレン市の概要 チューリッヒから東へ約1時間、ボーデン湖に近く、スイスで第7番目の都市ザンクトガレン市は、東スイスの中心都市でザンクトガレン州の州都である。 このまちは標高が670mあるため、農業に適していないことを早くから認識し、麻を栽培し布を作る繊維業が16世紀に盛んになり修道院を囲むように繊維業界が栄え、20世紀初めには刺繍も有名になるのと並行し、劇場・学校等も建設され、繊維と書籍・科学工業の町として発展してきており、人口は約70,000人である。 612年にアイルランドの僧ガルスが礎を築いた後の8世紀に建てられた「ザンクトガレン修道院」は中世ヨーロッパの学術の中心地として隆盛を極め、現在はバロック建築の壮麗なカテドラル(大聖堂)と付属図書館とが世界遺産に認定されている。 また、周辺には旧市街地があり、卵型の南半分は大寺院のエリアで、北半分は歩行者天国がある繁華街で、かっては富を誇示したという100ヶ所以上もある出窓や歴史の重みを感じさせる街並みや建造物等が印象的である。 【ザンクトガレンの施設見学】 10月21日(月)今日は調査団の最後の調査で団員全員が出発時刻の30分前からアインシュタインホテルのロビーに集合し、チューリッヒから来た通訳の「兼坂さくら」さんの紹介を受け専用バスに乗り込み、旧市街地の歩行者天国に隣接する駐車場で、昼前の案内をしていただく観光局ボランティアの「カロリン・デュットワイラー」さんと落ち合い、ザンクトガレンの簡単な概要を聞き市内施設見学を行なった。 =旧 市 街 地= 旧市街地には、 繊維商人が富を誇示するためと働く人の様子を見るために作ったとされる「出窓」が現在100箇所以上もあり隆盛を極めた当時の繊維商人を偲ぶことができる。 また、中世に宗教改革が行なわれ、町の内側が新教と外側が旧教に分かれたために、宗教の壁が造られ、今は一部取り壊されているが、その多くは250年以上現存している。 =ザンクトガレン修道院と大聖堂・付属図書館= 大聖堂は18世紀に再建された バロック様式の教会で、内部をフレスコ画などの装飾が施され、広々としたグリーンエリアのある教会である。 修道院は 当時ヨーロツパの学問の中心として名をはせ、200年前から修道僧はいないが、現在は州の所有となり、州議会と行政機関が入っている。 隣接して僧院付属図書館があり、ロココ式の重厚で華麗な内部は2階建構造になっていて、書庫には千年前の写本や2千冊もの手書き書物が15万冊以上あり、独特な閲覧カードの配置やナポレオンがこの町から撤退するときに贈られた2,700年前のエジプトのミイラ等興味深いものを見学することができた。 また、その図書館には見学者が靴のまま履けるスリッパが用意され施設の保護に努めている様子がうかがわれる。 これらは、1983年に世界文化遺産として登録されている。 =オルマメッセ見本市会場= 昨日まで「第60回スイス農業と酪農に関するフェア(農業博)」が開催されていた会場で、今年の参加者は35万人(昨年比4%増)あり、後片づけが盛んに行われていたが、待ち合わせている担当者が来れなくなっため、見学のみとなった。 この会場は、古くはテント形式だったが、現在は遊園施設等も併用した広い会場や、2,500人は収容できるコンベンションホールなどが設置され、農業博の他、世界の医師学会・おもちゃ博・バカンス博等 年間を通じて様々な催物が実施されているとのことでしたが、農業フェアを見学できなかったのが残念! =ザンクトガレン大学研修センター= 市街地を見下ろす丘の上にある大学の付属施設である研修センターを訪問し、パトリシアギュヨンさんの説明を受けた。 1995年にチューリッヒのブルーノテローザ氏の設計により建設され、「採光と広い空間」「著名な芸術家のモニュメント」を重要視し、基礎の岩盤に夏期間に熱を蓄積して冬季間消費する独得な「空調設備」のある2階建ての施設で、各種機器を備えた研修・会議室やセミナールーム・コンサートホール等がある。 施設の利用は大学の他に、銀行や保険業等の民間企業の研修・会議や、エンジニア等の養成にも有料で利用されている。 4.ザンクトガレン市訪問 午後から市の中心地にあり、駅と民間企業及び市が同居するユニークな「ザンクトガレン市役所」を訪問し、ハインツ・クリスティン市長から市の概要や現在の問題点等の説明を受けた。 ザンクトガレン市の人口は約7万人でスイスでは7番目の都市だが、「見通しがきき、足で移動できる街」である。これはデメリットではなく、どの施設にも簡単にいくことができるため、「市の活性化にとっては大きなメリットだと思っている。」との市長の説明から始まり、今抱えている都市の問題点として @ 都市間の企業誘致競争と既存企業定住確保の問題 A 市では住宅地の提供が困難なため、高所得者の都市離れ(周辺の町村へ)や、低所得者の流入が進んでいる問題 B 市が行わなければならない都市機能整備や道路網の整備維持管理や、各種都市活動さらには施設等の建設に伴う高税率による人口の流出 等様々な問題が懸念されている。 都市として将来的にもこのような業務や活動を行なっていけるのか疑問であり、今後国がすべきステップとして、都市の共同活動や国・州・市町村レベルの均等な経済政策の調整に取組んでいかなければならないとの考え方の説明があった。 また、産業では第1次及び2次産業が減り銀行・保健・情報・サービス等の第3次産業の比重が高くなってきている。特にスイス農業は生産コストが高く、自給率も低くなっており、市の農業労働力も全労働者55,000人に対し65人と少ない。 一方、ザンクトガレンには大企業は無いが、様々な中小企業が多く、経済交流は盛んである。 また、観光については、湖や山も無いため休暇・バカンスを楽しむ「観光都市ではない」が、文化遺産・展示施設・コンベンションへの参加等による人々の集まりが観光も兼ねている(一般的な観光とは「休暇などのバカンス」を対象と考えている)。また、市民劇場では、オペラやコンサートを意欲的に上演されている。 観光予算としては、「ザンクトガレンボーデン湖観光局」に毎年数拾万フラン投資している。 さらに、歴史的遺産等の維持や保護に対しては、これらを保護すべきものとして指定した時点で、維持する義務を課すとともに、それが民間所有であれば市が経済的な場面での援助をして維持している。 「オルマ見本市会場」の運営は、東部地域の州等で構成する「独立した協同組合」(市長が会長)が運営しており、経費は2千万〜2千5百万フラン(約20億円程度)である。 来年予定の大きなものとして、「農業博」等の他、スイスで2回目となる「世界手工業選手権」が予定されており、日本からの参加もある。(前回もオルマで実施) ガレン市の議会は63人の議員で構成され年間15回の議会が開かれている。また、行政は市の閣僚5人によって進められ、市職員数は約1,800人である(教員は含まず)。 以上の内容について市長の説明があったが、市の「観光行政」については消極的な感じを受け、次の訪問先である観光局に向かった。 5.ザンクトガレンボーデン湖観光局 市役所の近くにある「ザンクトガレンボーデン湖観光局」(以降「GB観光局」と記述)を訪問し、マーケティング・ディレクターのアストリット・ナコスティンさんから以下のとおり説明を受けた。 スイスには、「スイスツーリズム」という組織があり、各国に出先機関があるとともに、国内にも12地域に「観光局」が設置され、ここのGB観光局は東スイス地域の観光を受持ち、マーケティングや広報・販売活動等を行なっている。 =GB観光局の組織概要= ○営利を目的としない団体で(日本のNHK的なもの)、450の会員で組織され、9名の理事が監督官となり11名のスタッフと見習3名・研究生1名の15名で運営している。 また、ボランティアは全て有料である。 =東スイス観光局の観光概要= ○担当する地域には20の地方自治体があり、ホテル数は78(ベッド数2,400床)・レストラン関係829店を有する。 ○観光ハイライトは、図書館等の世界文化遺産・旧市街地・博物館・劇場・小動物園・フリータイム施設等があり、特に図書館とボーデン湖は2大ハイライトである。 観光客の入込みは、年間約25万人で時期的には4〜6月と8〜10月が最も多く、国別客数では、国内が最も多く53%で、ついで隣国ドイツが22%、イタリア・オーストラリア・アメリカが3%前後で、日本からは1%以下である。 ○観光客の動機は、ビジネスで来る人が最も多く、次に会議・集会等、オルマ等を利用した展示会、劇場や野外音楽会等がある。 また、フリータイムでは、文化遺産や旧市街地の見学や、ボーデン湖のバカンスに来る人が多い。 =GB観光局の財務(予算)= ○観光局の予算は、180万フラン(約1億4,400万円)で、その大半はザンクトガレン市と州で負担している。 この他の収入としては、市町村や会員の負担金(51%)、ガイド料等サービス業務からの収入(18%)、宿泊税(8%)、その他の収入(23%)である。 また、支出については、殆どがマーケティングに係るもので、広報活動・販売活動がある(人件費含む)。 =マーケティングの手段= ○ガイドブックや地図・チラシなどの更新のためのPR活動に最も経費がかかっている。 また、毎年ドイツのベルリンで開かれている観光にとって重要な博覧会への参加や国内の見本市にも出展している。 ○国際的なコンベンションには「スイッツアーランド・コンベンション&インセンティブ・ビューロー」という団体に加盟し、諸外国でコンベンション活動を行っている。 また、ドイツ・オーストラリア・スイスで組織する「ボーデン湖ミーティング」という団体にも加盟している。 ○会議・コンベンションは、大半が大学や病院等の民間が多く、開催手法が馴れていないため、観光局が支援し実施している現状にある。 これの大きなものでは、農業博の他、2年毎に「世界癌学会」がザンクトガレンで開催されている。(参加2,800人) ○アメリカに対してのマーケティングでは、 スイスツーリズムや他州と共同で「スイスは最高のものを」を謳い文句に広報活動を展開している。 ○メディア対策としては、世界から8局程度のテレビ・写真班を観光局の経費負担で招いている。また、ドイツからは常時メディア情報・記事を送ってもらう等の対応をし、マーケティングに努めている。 ○東スイスは山岳部でなく、国内的には観光条件は不利なため、平坦地を活かした「サイクリング」や会議・コンベンション等に力をいれ、観光の隙間を縫い充実を図っている。 一つの例として、約30Km四方の道路をシャットアウトした111Kmの自転車レース等を実施している。 また、新たな動きとして2004年のカジノ設置に向けて今具体的な取り組みが進められている。 ○GB観光局のナコスティン女史の感想として、「私は13年間この仕事を担当しているが、地域を理解してもらい、来ていただくための広報活動はいかに重要かがわかり始めてきた」と締めていた。 以上がGB観光局を訪問して説明を受けた観光概要であるが、勤務時間を超過しての親切な説明に感謝!感謝!感謝! 6.メディアによる取材 我々のザンクトガレンの調査に対して、新聞ラジオ・テレビ局等の取材を受けた。 これは観光局が各メディアに周知したもので我々には調査開始前に通知があり、当初は簡単に終わると思っていたが、随所で団長・副団長のインタビューを交え、終日に渡る取材が続けられた。主に州のメディアであったが、このような日本それも北海道からの調査団訪問はザンクトガレンでは珍しく、調査目的等に興味を持った取材をしていた。
7.おわりに 観光は、経済的効果はもとより、地域の活性化や人々の心にも豊かさを与えるといった効果をもたらすものである。 ライフスタイルの変化等により、観光に対するニーズは大きくなってきており、私達の住む北海道は、自然や観光資源に恵まれ観光スポットとして注目をあびている。 このザンクトガレンは「雄大な雪を頂く峯々・・・」といった、「俗に言うスイス観光」的条件には恵まれていない地域であるが、街の歴史の重みや地理を活かし、スイス観光の隙間を縫っての観光や会議・コンベンション・イベントに取組む等の積極的な姿勢が見受けられた。 歴史の浅い北海道とは条件が違うものの、北海道の優位性を活かした今後の「北海道観光」の発展と活性化を期待し調査報告としたい。 |
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