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◆主要研修課題〜環境保全対策について 1.はじめに スウェーデンは、スカンジナビア半島の東側を占める人口880万人の社会福祉が進んだ北欧最大の国である。国土は2,700kmの海岸線が続き、およそ半分が森林に覆われ9万以上の湖が点在している。 スウェーデン社会には、4つのコーナー・ストーンがあります。一番目は、成人者(18歳)は選挙権を有し、民主主義の原則である政治に参加することができる。二番目は、言論の自由、宗教そして結社の自由という政治的自由、三番目は,法により平等で性、人種、年齢に関係なく教育、医療制度の恩恵を受ける権利があり、自活していく平等の権利、四番目は、全国民に必要な時にサポートできる社会保険システムが確立していて安心して生活できる権利です。 65歳が定年で65歳になると国民には、就業していたか否かにかかわらず国民年金が支給されます。スウェーデン人の平均寿命は、女性が81歳、男性が76歳ですが、医療制度及びホームヘルパー制度が完備されており大半の老人は自宅に住んでいる。2,000年から2,020年までスウェーデンの老人人口は、25%に達すると予測されている。 義務教育は、6歳から15歳までの9年間で、日本の小学校と中学校を一緒にした基礎学校というものがある。大学以外の教育は、市町村の責任下にあり教育費は税金から出され無料である。 国は防衛関係に責任を持ち、県は医療関係に責任を持ちそれ以外はコミューン(市町 村)が責任を持って行っている。 スウェーデンは、21の県と288の市町村より成り立っている国で、市町村は、児童福祉、学校教育、老人福祉、市町村の税金の税率、福祉サービスへの自己負担額など、住民の身近なことを決定し、サービスを提供している。 また、都市計画、上下水道、電気の供給の責務も有しており、世界のどの国より国及び県から自立しており、大きな役割を果たしているといわれている。 2.ウプサラ市の概要 ヨーン・エリックトゥーン市長よりウプサラ市の概要について説明を受ける。 スウェーデンで4番目に大きいウプサラ市は、ストックホルムの北北西64キロメートルに位置し、アーランダ国際空港まで車で約20分、首都ストックホルムまで40分の通勤圏にあり、大学を中心として栄えてきた人口約19万人の町である。1477年に創立したウプサラ総合大学は、北ヨーロッパ最古の大学であり、現在、約30,000人の学生と 500人位の人たちが大学関係で働いている。主な産業は、製造業、製薬業、印刷業、食品加工業であるが特に製造業は、ハイテクで大学での研究に深いつながりをもっている。また、一番成長しているのがコンピュータ業界のコンサルタント業である。 ウプサラ市は、スウェーデンの都市の中でも常にすぐそばに歴史が存在している街である。150年の歳月をかけ1435年に建設されたウプサラ大聖堂、1523年スウェーデン初代国王グスタフ・ヴァ-サにより建設されたウプサラ城など街そのものが歴史博物舘である。 ウプサラコミューンは8政党、81人の議員により運営されており、議長が市長である。行政職員はパートを入れ約15,000人の人がたずさわっている。予算は約70億クローネ(約910億円)である。支出の大部分は福祉、教育関係であり、保育所、小中学校、教育関係に50パーセント、高齢者、障害者福祉関係に40パーセントである。 スウェーデンでは、自治体と環境NGOであるスウェーデン自然保護協会とが、対等な立場で協定を結び、「ローカルアジェンダ21」を実行する為の具体的な取組みを進めている。このような自治体は、ヴェクシー、ルンド、セーフル、エヴェートユルネオ、ウプサラの五市で地球環境の保全や持続可能な開発のために戦略を策定して、パイロットプロジェクトに取組んでいる。 3.環境保全の取組み「アジェンダ21」 「アジェンダ21」実行委員会コーディネーター、アグネタ・ペッタションさんより「アジェンダ21」の実行にあたり、具体的な取組みについて説明を受けた。 1994年、「アジェンダ21」の取組みが始まり、ウプサラ地域の「アジェンダ21」をどのように進めていくか1994年から97年まで自然環境、交通など15のグループに分かれ議論が交わされた。 ビジョンとして、環境問題、民主主義、民族の多様性の3項目が挙げられた。 地域の「アジェンダ21」として大切な事は、ここに住んでいる住民が協力し参加することに意味がある。 国際的視野で行動するため、ウプサラには環境大使がおり、環境大使は、何処かの所長とかでなくその人が環境問題に関心を持って働いている人、例えば教師、経済関係の人達である。 このような人達が下の方で決めた事を実行していくことになり、どの職場でも環境大使、担当者がネットをつくり、それぞれの職場で会議を開催し、インフォメーションを流し、また、コミューン(市町村)での環境事業を住民に報告している。この会議に出席した人が職場でどのように廃棄物を処理していくのか、その知識を他の人に知らせていくことが大切なことです。 一番大切なことは、環境循環に良い持続的な開発を行っていくことで、一人一人が小さなことから働きかけ、つもりつもって大きな結果を生んでいく、例えばトイレの水をあまり流さない、あまり窓を開かないなど何事も適度が大切なことです。 最初に環境調査を行い、私達がどのように環境に影響を与えているか、その結果をコミューンの執行委員会に報告、この環境報告によってコミューンがどのように環境影響を受けているのか、また、そこから何が出来るかということです。 環境生活(私達がどのように環境を見ているか)、環境目標(どのように改善できるのか)、環境プログラム(何をすれば良いのか)、これを方針に組織的に行動することです。 中央的プログラムもありますが、各行政機関独自のプログラムもあります。これが、その独自の一つにあたると思っています。 どのように水を節約するのか、エネルギーを節約するのか、どうやって緑の環境を作っていくのか、報告書が作成されました。水質の改善を図ったり、大気の改善を図ったり、ただ単に自分達が問題に対応するだけでなく、皆さんにインフォメーションを流し、一緒に協力していくことです。 環境大使の予算は年々少なくなっており、現在、予算額は200万クローネ(約2,600万円)である。環境大使の給料、会議場代、その他運営していくための費用であり、このような少ない予算で出来るのは、一人一人が環境に関心が高いため、可能であると説明を受けた。 「アジェンダ21」の別の面として、外の色々な人達をこの中に入ってもらえるよう行動を行っている。 例えば、市民会館で環境大使が一般の人に情報を講演する。また、インターネットなどで情報の提供を行っている。 街の開発で大事な問題は、土地利用であり、その土地利用の中で一般の人々がどのようなアイデアを持っているのか紹介します。 「街のためのビジョンと戦略について」 一般の人達の考え方を集めたパネルがあります。どのような土地利用を図るのか、一般の人、公務員、政治家、学校、会社など様々な人達の意見を求めました。使われていない土地の利用をどのように開発していくのか、政治的な決定がされていない地域をどのように開発をするのか「アジェンダ21」で意見をまとめました。市民のパネルには、4つのグループがあり、一つのパネルにだいたい130人参加しています。 また、色々なアンケートを送り、そのうち7,000人から回答をいただきインターネットで4,800人、アクセスを行ってくれました。 さらに、学生たちとどのように土地利用を図っていくのか、三つの学校とプロジェクトを組み、現在まで8回の大きな集会を行いました。 この街で何か変化が起こるときは、多数の意見を聞いて、それに基づいたプロジェクトを進めて行く事が大事であると思います。 未来は私達の手によってつくられます。一部の行政機関で一般の人達が参加できない所もありますが、だいたいのところは参加する事ができます。また、政治家などに直接質問することもできます。 特に環境問題について、多数の人達が自分の意見を持ってアイデアを発言することは大切なことです。一人一人のアイデアを聞くことは大変な事ですが、小さなことから一つ一つ解決していくことが、全体として大きな環境問題を解決することになります。 今回、ウプサラの「アジェンダ21」で学んだことは、上で決定した事を下に報告するのではなく、住民の意見を聴いて下から上にあげていく、この仕事の流れ、方向の転換が大きなことでした。これからも、住民と定期的な決定を行う場合、お互いに意見交換を行うことが大切なことです。 ※アジェンダ21:環境と開発について21世紀に向けて行動計画、エネルギー、バイオテクノロジーなど様々な分野での具体的行動案や資金調達策を1992年の地球サミットで策定。 4.地球温暖化問題の取組み 市の環境健康部長のカール・レナートオステット氏より「地球温暖化問題の取組み」について説明を受ける。 地球温暖化問題に取組んでいるコミューン(市町村)は政治的な組織で2つの役目を持っています。政治的な役目と裁判所的な役目であり、二つの役割は分離されています。 政治的役割として、国全体から言いますと環境省、その下に自然保護庁、県の執行委員会、コミューンがあります。スウェーデンではコミューンに非常に責任があります。コミューンでは、環境、健康、衛生、食糧などの各部門、また、レストランに特別な営業許可を与える部門もあり、40人の職員が働いている。全員4年制大学の教育を受けている。 裁判所的役割として、例えば、ある会社が何か違反を行った場合、罰金がいくらになるかアドバイスをする機能を持っている。 活動する予算は2,200万クローネ(約2億8千6百万円)、この内1,700万クローネ(約2億2千百万円)は市の負担であり、残り500万クローネ(約6千5百万円)は企業からの料金収入である。料金は年度単位であり、検査のときなど時間単位で徴収することもある。 料金は1,500クローネ(約19,500円)から30,000クローネ(約390,000円)、小さな企業では1時間600クローネ(約7,800円)かかる。 ウプサラ市で、環境問題に負担になるような企業は少ないです。一番の問題は、雑音と排気ガスです。熱の関係では、40年間で 700箇所の煙突を削減、現在、50〜100箇所の煙突が残っている。煙突を少なくしたことは、大気環境にとって非常に必要なことでした。 コミューンでは、廃棄物のほとんどを焼却し、環境、焼却場の監視など責任を持っている。環境問題では、集中的に行われていた農業の肥料により、水質に問題が発生したことがあります。 ウプサラ市では、法律を決めることが大事な事でなく、情報をいかに徹底するかということが大切な事である。例えば、インターネットでこちらに住んでいない人も、海外に住んでいる人も簡単に情報を得ることが大事である。 スウェーデンで誰が一番信頼されているか、誰が環境問題で信頼がおけるかグラフで表しています。一番信頼されているのは、研究者であり、次は環境団体、大学、新聞・テレビ・ラジオ、行政機関、産業界、政治家の順になっています。(ウプサラではこの順は適用されません。一同大笑い) 5.バイオガスプラント視察 バイオガスプラントについて、ルネー・ホーブバーク氏より説明を受ける。 ウプサラ市ではバイオ肥料、環境に優しい自動車用燃料を生産するため、牛、豚の屠殺場、レストラン、製薬会社、一般家庭、家畜から発生する有機性廃棄物を年間3万トン処理するバイオガスプラントを建設している。 プロセスとして、これらの廃棄物を絶えず撹拌、破砕し混合槽に収容した後、病原性細菌の拡散を防止するため、70℃で1時間加熱殺菌処理を行い、その後約20日間、3,300立方メートルの発酵層で嫌気性発酵(55℃)させる。発酵終了後、その生成物(残留物)は従来の散布機械を使い、牧草地に散布している。 生産されたバイオガスは、主にメタンガスと二酸化炭素であり、乾燥後クングセンゲン施設のガス清浄場にポンプで送くられている。 分類分別されたバイオ(有機)肥料は、窒素、燐、カリウム、カルシウム、マグネシウムの栄養素が含有されている。重金属は低数値であり、制定された数値を十分クリアしている。バイオ肥料はクングセニゲンの施設内貯蔵庫と、半径10キロのサテライト(衛星)貯蔵庫に貯蔵されます。 約1,000ヘクタールの近郊牧草地がこの方法で栄養素が供給されている。 現在、40台のバスが生産されたバイオガスを利用して運行している。バイオガスを水で洗い炭酸ガス、硫化水素を除き、メタンガス濃度は約98パーセントになる。 ルネー・ホーブバーク氏によると最初の目標は、バイオガスを約1,000トンのディーゼルにとって代わることを考えてきたとのことである。 バイオガスは、石油の二倍弱の価格であるが、「環境破壊を行なっていることにお金をかけていることを考えると、バイオガスが高い、安いと考えること自体問題である」と説明された言葉が非常に印象に残っている。 6.地域暖房施設調査 地域暖房(バッテルファル・バルメ・ウプサラ)について、シュハオーケ・ファシェンド氏より説明を受ける。 1,960年代、スウェーデンの地域暖房はオイルを使用していたが、1,970年代最初のオイルショックにより、非常に石油に対する依存度が高いことに気づきました。石油の依存度を減少させるため泥炭に目を向け、1,980年代には、可燃性の廃棄物にも目を向けました。 ウプサラ市は、1,980年代に大きなゴミ焼却場を2箇所建設しました。2,000年になると、バッテルファルがウプサラ・エネルギーを買収、以前はコミューンの会社でありましたが、現在は国の会社になっている。 スウェーデンで一番大きい処理施設がウプサラ市にあります。ウプサラには260名の職員がおり、バッテルファル全体では72,000人の職員が働いている。 ウプサラ市では、廃棄物を燃焼させ地域暖房に利用している。1,980年は石油の割合が非常に多く廃棄物は小さなものでしたが、 82年〜83年、廃棄物の割合が33パーセントまで占めるようになりました。現在、もう1箇所廃棄物処理場を建設する計画があり、将来廃棄物の割合を65パーセントまで高める予定です。 主燃料は廃棄物と泥炭であり、林業から出てくるおがくずを泥炭に混ぜて使用している。泥炭の資源を長く利用するためである。ゴミ処理には三つの炉があり、1時間に31トンの処理を行っている。 ウプサラ市では、約95パーセントの人々が地域暖房を利用している。 7.おわりに スウェーデンでは、汚染されていない空気、そして水を安心して飲めるような環境を維持することは当然のようである。 ウプサラ市は、環境を改善する事を非常に重要視し、基本方針に基づいて活動している。 市環境局が中心になり各部署に必ず環境責任担当者が配置されている。 また、一般市民の環境に関する相談サービスセンターも設置されている。市はリサイクルしやすいようにゴミの分別に力を入れており、環境ステーション設置に向け進めている。 ショッピングセンターは環境にやさしい商品を揃えている。メーカーは、製品にエコマークをつけたり、環境認証をどんどん取得し、環境に対する自覚意識が社会全体に浸透してきているとのことである。 ウプサラ市では、屠殺場からの廃棄物、レストランからの残飯、その他生ゴミは、バイオガス施設に運ばれバイオガスを発生させ、市の乗合バスの燃料として使用するばかりでなく、肥料としても使用している。 住宅暖房のエネルギーは、主に泥炭、ウッドチップ、林業廃棄物、分別されたゴミが主燃料で公営ウプサラ・エネルギー公社から給湯で一般家庭、企業に供給されている。 ウプサラ市の循環型地域づくり、循環型社会づくりに向けた、先進的な環境対策・エネルギー問題に対し積極的に取組んでいる状況を視察し、環境保全の取組み「アジェンダ21」の中で説明された環境循環に良い持続的な開発を行っていくことは、一人一人が小さなことから働きかけ、つもりつもって大きな結果を生んでいくということを強く実感した次第であります。 |
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