稲場(司会進行)
ただ今から第24回北海道都市問題会議第3分科会を開催いたします。本分科会は、「地域を活かした新しい産業展開」のテーマに副って進めてまいります。始めに話題提供者のお二人をご紹介いたします。まず「グローバル経済における北海道地方都市の立地条件を考える」と題して、北日本精機株式会社代表取締役社長 小林英一様です。もうお一方は、「夢いっぱいの農村を舞台に」と題して、十勝農村ホリデーネット代表 中野一成様です。
続いて、本分科会の進行とご指導を頂くコーディネーターをご紹介します。立教大学経済学部教授 廣江彰先生です。最後に本日の司会・記録を担当するのは芦別役所 稲場厚一と高橋克嘉です。
それではコーディネーターの廣江先生に、これ以降の進行をお願いし、本分科会を早速取り進めたいと思います。限られた時間でありますが、皆さんの闊達なご意見をお願いいたします。
廣江(コーディネーター)
大変なお役目を預かりましたが、進めさせて頂きます。14時30分からはじめ、16時30分をめどに終了したいと思います。皆様方の忌憚ないご意見を頂くよう、それにふさわしい話題を提供して頂きます。地域を生かすには本当のところどうすればいいか、その点を考えたいと思います。なお、私は一見若く見られ、時々「若いくせに生意気だ」といわれることがあります。いつも年齢をお断りするのは、そう思われると真剣な議論ができないためで、資料の生年月日をお確かめください。では、歳をとっていれば生意気をいってもいいのかというと、そういうことでもありません。そこで歳相応のことを申し上げます。
私は北海道に1985年から1991年までおり、その間、企業を訪問して道内を歩き回りました。道の審議会にも幾つか出ていましたが、その委員の中でも、道内の製造業を歩いたのは私が一番多かったのはだろうと思います。しかしあいにく、北日本精機には行っておりません。なぜかというと、優良な企業なのでいつでもお話を伺えると考え、もっと問題を抱えている企業の訪問を優先したからです。南から北から、だいたい道内全部に行っております。これも昔のことになりますし、もう1999年ですから新しく事情も変わってきたと思います。そういったことも含め、今日は私も勉強するつもりで議論に加えて頂き、その立場で進行したいと思います。
まず簡単にルールを申し上げます。お話し頂く人数は多くないので、十分いろいろなことをお話し頂けると思います。話題提供者には冒頭の話題提供を除き5分程度でお話し頂き、できるだけ相互に議論のやりとりをしたいと考えます。フロアの方々の発言は3分間ですが、長くて短い時間です。どうぞよくまとめてご発言頂ければ有り難いと思います。
まずお二方から、現在なさっていること、その中でお考えになっていることを約15分話題提供して頂きます。それではお願いいたします。
「グローバル経済における北海道の地方都市の立地条件」 |
北日本精機株式会社代表取締役社長 |
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小 林 英 一 氏 |
多少生意気なことを申し上げるかもしれませんが、廣江先生のお話の通り、これも歳のせいだと思ってお許しを願います。
「グローバル経済における北海道の地方都市の立地条件」と題名がついていますが、私は北海道に世界に通用する精密機械工場を作りたい、そういう希望のもとに、30数年努力を重ねてきました。お陰様で芦別の従業員総数は、関連を含め約500人、昨年の年生産高は75億円、これは販売額ではなく生産額です。北海道の地方都市における、30数年の精密機械工業としての経験をもとに、北海道の地方都市がもっている優位性、あるいは非優位性についてお話をさせて頂きます。
現在、約700万個の精密ベアリングを生産しており、半分は世界27カ国に輸出しており、半分は国内販売です。ちょうど5年になりますが、ISO9001を北海道の地場資本として初めて取得いたしました。また今年、北海道の機械製造業としては初めてと思いますが、ISO14001の環境基準を取得しました。ある意味では、北海道地方にある典型的な中流国際企業ではないかと、私自身思っております。
北海道はどちらかといえば、精密機械工業あるいは加工度の高い製造業がなかなか育ちにくいといわれていますが、私どもは芦別で仕事をしていて、そんなことはないと実感することがいろいろあります。それを逐次、具体的にご説明し、後ほどそれについてのご質問があればと思っております。
まず第1に物流についてです。私どもは50%を海外に輸出しています。そのうちさらに50%は航空便です。ヨーロッパは千歳からオランダ航空を使い、一部は本州から出しています。アメリカは成田から輸出しています。この芦別市からアメリカ・ヨーロッパに着くのに、約3日です。発送してから3日で、お客さんの手に渡ります。航空運賃はだいぶ値下げされ1kg500円程度、少しまとまると400円程度になります。ダンボール1箱20kgで約1万円で、アメリカでもヨーロッパでも届きます。ですから、割合付加価値の高い商品であり、私は北海道の芦別でも、物流に関してハンディはないと思っています。また、オーシャンフレイトについては、主に神戸から出しています。トラック便で神戸まで2日程度ですから、これについても私は、北海道の地方都市でも物流に関するハンディは全くないという考えを持っています。
芦別から千歳空港までは2時間少々、旭川空港には1時間半ほどです。海外からのお客様に関しても、芦別は不便なところだというお話は一度も聞いたことがありません。むしろ、ある意味で非常に立地条件のよい、便利なところで仕事をしているという発言が多くあります。物流のハンディは、現在の北海道地方都市には全くない。もちろん、加工度の低い大きな物は別でしょうが、物流に関するハンディはないと考えています。
情報・通信に関して、これは皆さんもご承知の通り、本州と全く格差がありません。特にファクスで図面が送れるようになってから、海外のユーザーとも直に図面のやり取りができますから、情報・通信におけるハンディもありません。特に最近のインターネット、電子メール、あるいはインターネットを活用した図面の送受信にしろ、非常に正確にできますから、私はそういう意味で、情報・通信においても北海道の過疎性は全くない。情報に関しては、国際企業の立地条件として非優位性は存在しないと思っています。
もう一つ、北海道の地方都市で大きな優位性は、地価が安いことです。私はよくいいますが、地方都市としてのインフラは完全に整っております。市立病院、図書館、市民会館、このような会議場もプールもあります。バレーボールの選手もやってくる。そういう地において、土地が安いことは大変大きなメリットだと思っています。機会があればぜひ明日ご視察願いたいのですが、私どもの工場は非常に伸び伸びとしております。特に私の部屋などは、アメリカのお客さんが来られても大きいというくらい、伸び伸びとしております。
もう一つ私が非常に優位だと思うことに、土地が安いため、従業員の生涯設計が割合容易にできます。家を建て庭を持つ、庭に小さな菜園を作る。そのように、北海道の地方都市では質の高い生涯設計ができますから、当然定着性があります。私どもの従業員は関連も含め500人ですが、離職率が大変低く、年に1人か2人、定年退職以外はほとんど離職者がいません。これは会社だけでなく、芦別での生活が非常に快適だからではないかと思います。
次に気象条件です。よく北海道の気象条件によるハンディがいわれますが、高速道路が年に7・8回ストップすることがあります。しかし、下の道路は動いています。そういう意味で、雪害による交通障害もほとんどないといってよいでしょう。物流に関して、気象が大きなマイナスになることは、ほとんどありません。また、建築資材が進歩しているので、寒冷地でも空調コストが高くつくことは、ほとんどありません。冷暖房を相殺すると、私は本州に比べ大差ないという感じがいたします。
精密機械工業は、非常に注意力や持久力が要求されますので、質の高い労働力が必要です。質の高い労働力は、質の高い地域社会があってこそと私は考えます。ある意味において、北海道の地方都市が持つ生活環境が、高度産業に向いていると思います。特に、インターネットを使用した物流効果、営業活動といった新しい産業が、北海道の地方都市に生まれてくる可能性が非常に高いと思います。土地が安いので大きな物流倉庫などです。私は従来、北海道が持っていたハンディをよく見てみると、これはハンディではないと考えています。私の話題提供としては、このような点です。
廣江(コーディネーター)
有り難うございます。大きく分けて5つのご指摘を頂きました。不足の部分は後ほどご意見を頂きたいと思います。確かに私が生活した実感でも、北海道がそれほどマイナス点を持つとは思えませんでした。
私が指導しているゼミの学生の中に、札幌市出身の4年生がおります。最近はインターンがはやっていますから、自分の故郷の会社をよく知るべきと考え、3年生の時に北海道の情報系企業に引き受けて頂き、そこで1ヶ月ほど仕事をしてました。また、今彼は卒論で「家」の研究をしております。それは単純にいえば、「東京の家はなぜ寒い」かということです。つまり、北海道の「家」の住み易さということを彼はいいたいわけです。
雪や寒さという「ハンディ」は、実は対応によって「ハンディ」ではない別の何かに変わるそれが北海道の自宅だ、というのが彼のいいたいところです。
つまり、後ほどお伺いしたいと思いますが、ハンディと思われている部分を克服するだけでなく、より積極的にメリットをどう生かしていくかが重要になると思いますので、その点も併せ、ご意見を頂きたいと思います。
「夢いっぱいの農村を舞台に」 |
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十勝農村ホリデーネット代表 |
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中 野 一 成 氏 |
小林社長のたいへんグローバルなお話に比べ、非常に泥臭い話になりますが、農家の息子で3代目になります。農業にレストランや宿泊施設を加えた経営を行っています。昭和63年、自分の山から木を伐り出してログハウスを作り、オール手作りでレストランを始め、今年で12年目になります。レストラン、宿泊施設その他10数軒のログハウスでやっております。その間にバブルが起きたりはじけたり、各地でいろいろなテーマパークが華々しくでき、散っていきました。そんな中で何とか生き残ったというか、元気にやらせて頂いています。なぜ今まで生き残れたのかという点から話題提供いたしますが、これは全て自己資金です。自分の力で全部やりました。
もう一つは、お客さんのニーズは、経営者自ら自分の目で見つけ出す。変なコンサルタントのようなものに頼んだのでは、絶対だめです。どこの行政もコンサルタントを多数使い、中には経営経験のないコンサルタントもおり、非常に危のうございます。今日もこの中におられるかもしれませんが、私はコンサルタントが大嫌いでございます。経営者自ら、給料の高い者自ら改善点を見出す。それはお客様から感じ取ることです。
もう一つは、自分の店独自の商品開発にしっかり取り組むことです。地場で作った物にしっかりと手を加え、手抜きをせず、「はやりものは廃れもの」という言葉がありますが、決して流行を追わない。あくまでもオリジナルをということです。大事業がばたばたと倒れる中で、健全に経営しております。年間30万人の人たちが訪れており、経済的にも非常に潤っています。夢いっぱいの農村といいますと、昔でいえば自然いっぱいの中で働けて幸せという内容に聞こえますが、私はお金が儲からなければ決していい農村ではないという論をもっております。お金を儲けることが地域おこしです。どんなまつりも地域経済がしっかりしている中から生まれるもので、イベントにばかり走っている馬鹿がいっぱいいる。それで自分の生活がやっとという者がたくさんいますが、まずは自分の地域経済をしっかり足固めすることが大切だと思います。
12年間を通し、都会の人たちと様々な出会いをして来ましたが、様々なふれあいがありました。動物を飼える空間がいいですね。老後は農村で生活したいです。子供がアトピーです。登校拒否の問題もあります。そうった都会の人の話を聞くにつれ、都会の人の悩みは、我々の地域で相当解決できる。応援してあげられることがたくさんあるという気がします。都市と農村は、我々側も非常に区別する部分がありましたが、もう少し仲良くすることによって、農村から見て都市の方は大切な消費者ですから、互いの交流・連携が進むことにより、豊かに感じられない都市生活をもっと幸せなものにつくり替えることができるのではないかと感じております。
廣江(コーディネーター)
有り難うございます。お話にあったように、お金が儲からなければ地域おこしができないという意見には、私も同様の実感がいたします。学生に授業で企業の目的は何かと聞くと、最近は社会貢献という答えが多くあります。これはメディアでそう報道されることが多いからだと思いますが、授業の中でそういう声が多いので、私は違う、企業は利潤をあげることが目的である。利潤を上げてこそ社会貢献をしたければできる。もちろんお金だけを儲けることは疑問ですが、収益がしっかりしていなければ社会貢献などできない。それを考えずに企業の目的を社会貢献だというのはおかしいといいます。イベントにしても何にしても、どのように自分たちの富を豊かにするか、その富をどのように分け合うか。そういったことを個人の会社や地域で考えていかなければ、確かにお話にあったようにイベントにばかり走ってしまうかもしれません。
お二人のお話を聞いて、私から一つだけお伺いします。その上でまた追加分をお話し頂きたいと思います。質問は、今は元気にお仕事をされていますが、時代は変わってきます。芦別の統計を見る限り、将来いろいろ大変な問題を抱えてくることが分かりますし、それは私がいる大学がある都市でも同様です。今とか明日どうするかという問題も十分議論すべきですが、先々どうなりたいか、これが重要だと思います。その地域の人がどういうことをしたいのか、どうなりたいのか。当然それは個々の企業や経営者にもどういう会社にしたいのか、あるいは自分が次の世代に譲ってどうしてほしいのか。任せるという考えもありますが、夢はお持ちだと思います。そこで、どうしたいのかという話を、お二人に長期的な展望でお伺いします。
だいたい30年から50年くらい先を考えると、小林社長の会社はどうなってほしいとお考えですか。次に中野さんには、現在の事業においてどうなればいいとお考えでしょうか。
小林(話題提供者)
たいへんいい質問だと思います。実は私はこれについて思い出すことがあります。ちょうど私がスイスの懇意にしている得意先、この方は私の親友の一人ですが、食事をしているときに、歳をとったらスイスに来て一緒にマス釣りでもしようよといわれました。私はその時、心中非常に憤然としました。この芦別でも、創意工夫によってスイスに負けないような土地ができるぞ。スイスに負けないような住環境ができる。工場もできる。私はその時、芦別を一つひとつスイスに負けないような、あるいはアメリカの郊外にあるように豊かなところにしたいと、心中燃え上がるものがありました。
地域とどういう関わり合いをすればいいか。まずこの北海道はどうするか。私は、北海道は素晴らしいところであり、こんなに景色もいい、そういうことを色々な世代に認識して頂きたい。そうすればこんなに素晴らしい北海道に、自然と愛情が湧いてきます。我々の郷土であるという意識を地域社会に植え付ける。その地域社会の小さな夢を一つひとつ生かしたいと思います。私どもの本社は道のデザイン賞を受賞しました。この建物は、私どもの事業が順調だと確信できたとき、地域に何かお返ししたい。私どもは芦別から逃げ出しませんという証です。銀行は、小林社長、上芦別にこの建物をつくるなら、同じお金で札幌に使ってはどうですかと。札幌にはこの程度のお金をかけても、いい建物がたくさんある。私はこの上芦別にとこの建物を作りました。これは公開施設で、私からいうのも何ですが、工業生産の設備としては日本一、ということは世界一です。
わたしは経営者というものは、世界に向けてこういう生活をしているという一つのレベルがなければだめであるというのが私の理論です。私が住んでいるゲストハウスは、札幌から古い蔵を移築し、ちょっとした資料館にしています。なぜこういうことをするかといえば、経営者は地域を愛さなければならない。そして地域のレベルを少しでも高め、若い世代に芦別に生まれてよかった、北海道に生まれてよかったと思わせる。郷土に対しあるいは地域社会に対する愛情を育てることが、私どもの10年20年先の仕事に大きな影響を与えると思っております。私どもの従業員にしても、芦別や地域社会を愛し、生活を大切にし、それを通して仕事に専念する、そういう社会が望ましい。私は以上のような持論を持っております。
廣江(コーディネーター)
たいへん明確で、夢の多いお話でした。中野さん、いかがでしょうか。
中野(話題提供者)
私は経営者というより農業者として、十勝という農業が非常に盛んな地域で生まれ育ちました。民間で自給自足を含めた循環型農業を確立し、家族が幸せに生活できるような、ゆっくりとした流れの中で生きていけるような将来にしたいと思います。
廣江(コーディネーター)
私の勤めている大学は都心型大学ですが、それでも地域が色々な問題を抱えているので、大学としてどのような地域貢献をするか、大学としてはどういう地域をつくっていきたいか、意見交換をすることがあります。そういうシンポジウムに出席していた地域商店街の方が、我々は高齢化した地域のお年寄りのために存在意義がある、といわれました。しかし、私が申し上げたのは、それはたいへんご立派なことです、ぜひやって頂きたい。ただし、高齢者のためのお仕事はコンビニエンスストアでもしているし、大型店でもやる。何年か経って、高齢者がいなくなればあなたは誰に物を売るんですか、と申し上げました。
何をいいたいかというと、我々はどうしても今を固定して議論しがちですが、先々どうなるのか、30年先あるいはもっと先はどうなっているか。それに向けてどういうことを今するのか。それには先ほどお話にあったメリットやデメリットが何で、それをどう生かしたり克服していくかが問題になると思います。それらを考えて一つひとつ解決する、あるいは担い手をつくっていく、自らやっていくことも地域を変えることだと思っています。
先ほど伺った中で、なるほどと思ったことがあります。先に中野さんに伺いますが、大きく3つ挙げて頂いた中で、独自の商品開発をして流行を追わないというお話がありました。これはいってみれば意地を張っているというのではなく、ご自身にやりたいことがあるのだと思います。これまでと今、どういうことを仕事の中でやりたいのか、人にどんな商品やサービスを提供していきたいのか、もう少し詳しく伺えますか。
中野(話題提供者)
難しい質問です。私もいってみればテーマパークに近いようなものですが、自分の描いた夢をお客さんに伝えるには、実際に汗を流さなければ伝わりません。なぜテーマーパークが全部つぶれたかといえば、借金ばかりでテーマがないからです。物語がないというか、「北の国から」のテレビではないですが、どんな辺ぴなところでも、そこにしっかり生きていく人間の夢がある限り人が集まるし、そういうものが一番だと思います。そんなに立派な設計図などなしに、全部自分で作ったものですが、何か匂いを感じ取ってもらえると思います。私にしかできないこと、私の匂いをいっぱい詰め込んだようなものにしたいです。ただ、お金がないのでできるだけ汗を流しやっていることが、お客さんに伝わればいいと思います。
廣江(コーディネーター)
テーマパークについては、私も北海道にいる時、東洋一高い建物が何の自慢になるといってだいぶ叱られたことがあります。確かにおっしゃるように、自分で汗をかいてそれを知って頂くことは大変重要だと思います。
小林社長にお伺いしますが、郷土を愛してほしいというお話は、自分たちもそうするけれど、次の世代に伝えていくことだと思います。過疎化が進んでいくうえで、郷土を愛してほしいというのはどういうことを示唆しているのですか。
小林(話題提供者)
郷土を愛するうえにおいて、絶対必要なものは仕事に就いているということだと思っています。仕事がない、職がない状況では地域社会を愛することはできない。私は自分の守備範囲である経営者として、少しでも雇用機会を増やしたい。でき得ることならば、少しでも従業員の能力を、経済的に高く評価したいと思います。私がよくいうのは、経営者は地域に対して貢献する二つの道がある。一つは雇用機会を増やし、もう一つは利益を上げ税金をたくさん払うこと。税金を払わないと、国家は衰退しますし、地方行政は大変なことになります。そういう意味で、私は経営者として、税金を少しでも余計に払えるような経営をしたい。この二つが、私の守備範囲における私の使命だと考えています。
廣江(コーディネーター)
やはり企業として利益をあげ、地域に貢献することがベストであると思います。先ほど中野さんは自分の汗を流すといわれました。アメリカの経営者にはそういう方が多いですね。2つ目にあった従業員の能力を高く評価することは、経済的に賃金という裏付けをすることとは別に、能力それ自体を高くしていきたいということですね。この面で、社員にはどういう要求をしていますか。特に非常に精密なものを作っておられるわけですから。
小林(話題提供者)
これも私の理論ですが、優れた経営者とは、決して優れた従業員をフルに使うようなことはしません。ごく普通の並みの人間が、決められた時間の中でごく普通の努力をする。その中でしっかり利益を上げることが、私はいい経営者だと思っています。鉢巻きをして働き、従業員を他の意味において消耗させ利益を上げることは、経営者として正しい方法ではないと思います。ですから、ごく普通にあなたの守備範囲における専門的な努力を、まじめにやりなさいと。
なおかつ、これは歳に免じて許して頂きますが、小型ベアリングの世界のマーケットに対する認識等は、私自身、世界第一人者だと思っております。それから我が社の営業だとか、得意先に対する評価、生産上の大きな問題などを解析する点、あるいは知識では私が1番であると思っております。といいますのは、経営者が絶対だという領域をもつことが、従業員を生かす決め手の一つではないかと思います。
といっても、従業員に経営者と同じレベルでものを要求するのはたいへんナンセンスですから、やはり生活を楽しめ、自己のプライベートの生活を確立できない人間は、とても仕事はできないと思っております。美しい自然や汚してはいけない自然など、基礎認識がないと、人間がフルに能力を発揮できないと思っております。全て自己啓発、あるいは従業員の啓発へと、常に方向づけております。
廣江(コーディネーター)
ご承知のとおり、道内にはI自動車が部品工場を持っています。I自動車の工場が立地する際もそうですが、T自動車が進出した時にも関連の部品加工を道内企業にしてほしいと名乗りをあげてもらった。その時は手が挙がりますが、具体的な話を進める、あるいは試作品を作る段階になるとだんだん手が下りてくる。だんだん手が下りてくるのを見て、やはり北海道の製造業の経営者はやる気がないのではという声がずいぶんありました。私は多分違うだろうと別な見方をしましたが、多くの方はそういういい方をしました。
今までの小林さんのお話を聞いていても、それはあなたの会社が成功しているからそういうのだ、といういい方もあるでしょう。これは一面では真実だと思います。そうではなく、どのように自分が努力し、だから成功しているということを少しお話頂いたうえで、北海道はだめだという人が多かったわけですが、そういう意見をどのように理解していくか。どこをどうボタンを掛け直せば、北海道経済が少しでも変わっていくか、その辺りも含めてお伺いします。
小林(話題提供者)
I自動車の件についてですが、ほぼ10年前ですか、I北海道から打診がありました。ところがそれは年間に1万個くらいで、大した仕事にならないのです。私は既に取引先に自動車関連のベアリングのメーカーがあり、そこに毎月数億円のものを送っていました。I自動車は道と通産が音頭を取って、北海道の業者を傘下にいれよう、ある意味で強引に持ってきたものです。その時私どもはヨーロッパのディーラーを経由し、ヨーロッパの自動車メーカーにも入れていました。失礼ですが、これだけのベアリングメーカーにそれだけ入れているものを、なかなかおいそれと飛んでいくわけには行きません。ビジネスには、そういう裏があります。その時通産が、北海道の経営者はこういう新しい話にすぐ飛んでこない、やる気がないと発言しましたが、私はそれを敢えて無視しました。
廣江(コーディネーター)
小林社長の会社はそういった姿勢だったということですね。ただ、「やる気がない」といわれてたのは、道内の鋳造品メーカー等を含む北海道の自動車に関連する部品を生産できる企業全体に対していわれたことです。同業他社と同一視されるのはお嫌でしょうが、北海道の製造業全般という目で見た場合はいかがでしょうか。
小林(話題提供者)
自動車産業の部品の価格は非常にシビアです。相当に専門化し、一流の設備がないと、なかなか自動車産業に参入できません。そういう意味において、北海道の他機械関係の業者には、多少荷の重いところがあるという感じを当時は持ちました。北海道にも非常に立派な自動車の部品産業がありますが、自動車産業に参入し利益を出すことは、なかなか難しかったのでしょう。経営者も、自分のところにそれだけの力がないと思ったか、コストの問題があったと思います。
廣江(コーディネーター)
自動車産業の仕事をすることが部品メーカーにとって幸せかどうかは全く別の話ですが、道内の製造業に対して、受注するにはまだ距離があったという認識をお持ちだということですね。
ちょっと話題を変えて、中野さんのお話の中で、私はこれも非常に面白いと思ったのですが、コンサルタントに頼らず、お客さんのニーズは自分で掴むという言葉がありました。どんなことをどのようにされ、どの点でコンサルタントの話を聞くより、自分がしてきたことがよかったか、具体例を含めてお話しください。
中野(話題提供者)
どこのまちにも商工会やコンサルタントがあります。例えば50席のレストランを経営するにあたり、5人掛けで10席、1日3回転すれば150人来ます。1人1,000円払えば15万円売り上げますという計算をコンサルタントがします。皆さんも頭の中で想像すれば分かると思いますが、実際お客さんは5人ずつ来ません。1人だったり2人だったり、中には6人で来るわけですから、5人掛けのテーブルが10あったら、私の計算では20〜25人入ると満杯状態になります。ここでもう既に、3回転したとしてもその数字は全く当てはまらなくなります。商売をしてみると、勉強することと現実のギャップがあります。また、コンサルのいう以上の数字を出すことも経営だと思います。例えば1日150人を見込んでいたものが、300人入れることも経営上不可能ではありません。その面で、数字は勉強して善し悪し、ですから行政などが失敗するのはこの辺に理由があるのではないかと思います。現実は全然違うところにあるような気がします。
消費者のニーズも、お客さんの中に飛び込んでいって何を話しているのか、どういう食べ方をするのか、つぶさに見ています。よくレストランで洗い物をさせると文句をいう者がいますが、やはり洗い物から技術を掴むものです。ある品が多く残っていれば、ニーズに合っていないからだし、きれいに食べていれば合っているからです。ニーズの見方は非常に幅広いし、真剣にならないと見えないと思います。そういう意味で、ニーズを掴めば幾らでも伸ばすことができるし、非常に面白いものです。
廣江(コーディネーター)
現在はレストラン以外に幾つも商品を作っておられますね。それらについては、お客さんのニーズをどのように掴んでおられますか。
中野(話題提供者)
試作品などを作りますが、自分のセンスがいいと思っても、それが商品になったとき売れ筋になるとは限りません。その面では店に出してみて売れるものが一番いい商品なので、舞台に出してみることが一番です。
廣江(コーディネーター)
先ほどの汗をかくということを別な言葉で表現すれば、コンサルに頼るということではなく、自ら事業を繰り広げていかなければならないということだと思います。お客に対して物やサービスを売るとき、自分もその中に入っていく努力をしなければなりません。それをしないと、なかなかニーズは分からない。しかし、売れると思っても売れないという結果もあります。そういう意味ではお客さんも冷たい部分があります。そういった失敗の場合はどう対処するのですか。
中野(話題提供者)
やはり失敗はたくさんあります。消費者になりきれれば一番いいのでしょうが。私が経営者が第一線に出るべきというのは、給料の安いアルバイトの娘さんにニーズを掴めということ自体が大間違いで、一番給料の高い経験豊富な人間が第一線に出てニーズを掴み、商品開発をすることがない限り、我々のような中小の経営者は成り立っていけないと思います。
廣江(コーディネーター)
経営者も当然人ですから、能力の優劣はあると思います。経営者がいかに優れているか、それが大変微妙な問題で、今のお話はその部分につながっていくと思います。繰り返しになりますが、いろいろ勉強され試作品を作り、その上でお客さんに投げかけ、よいか悪いか判断します。ただし、それをお客が選んだから結果としていいというのではなく、経営者の目としてこれはいけると思う瞬間があると思います。そういうご経験はいかがですか。
中野(話題提供者)
第一声といいますか、、宿泊者が物を見たり触ったりして上げる第一声、驚きというか、喜びというか、それが大きいものだと思います。
廣江(コーディネーター)
お客を見る事業ですからマーケットを見る、あるいは読んでいくということになります。小林社長は営業がご出身ですね。元々エンジニアではないが、営業の仕事をされながら非常に技術の高い事業内容へ移行されました。我々の考えは、普通逆であって、エンジニアの方が営業を経験しながら、より精度の高い製品をつくれる会社に変える。しかし、北日本精機の場合、それとは逆である。そのことが、御社にとってプラスになっている点はありますか。
小林(話題提供者)
私は営業ですから、マーケットを熟知しております。注文が次にはこのように変わってくるぞと、ほぼ的確に掴めるわけです。そうすると、その分野に対する設備投資を大胆にできます。その点で、営業屋出身の社長のメリットだと思います。技術的な面では多少ハンディがありますから、一流の機械を導入し、必要な設備投資には思い切って投資します。その点では、マイナス面をプラスに転じた面があるのではないでしょうか。
廣江(コーディネーター)
今まで約1時間を費やして、お二人のお考えを伺ってきました。お話のような姿勢で経営者は今後臨んでいくといいかもしれない。ただ、同じ道を歩めとは、お二人とも考えられていないと思います。それぞれに違ったいろいろな道があるだろうし、市場動向も掴み、失敗を回避しながら成功への方向へ導いていくということだと思います。
もう一つは、先ほど私が申し上げた、私が91年まで北海道にいた経験では、よく大学の教員や、コンサルタントの方が北海道の経営者は努力をしないといっていました。お二人のお話をうかがうと、そういった指摘との落差がかなりあります。お二人はそうであっても、他はそうでないから地域経済全体がよくならないという理屈も成り立つかもしれません。お二人の経営者に特別のことであって、道内の経営者一般は、違うのかもしれないという前提で、お二人が今まで述べられてきたことに対し、フロアからご質問があれば受けたいと思います。その後、是非という意見があれば伺います。最初に、今までのお話の中でもう少し知りたいなど、お一人3分という限度がありますが、ご質問を受けたいと思います。
竹田(フロア)
今日は大変素晴らしいお話をうかがいましたが、実は私も商人、商業者です。商店街が活性化していない大きな問題は、後継者がいない、できないという問題です。先ほどの、経営者はこういう生活をしているというお話は大変感銘深かったのですが、そのためには経営がしっかりしていなければならない。要するに儲けがなければだめだというお話だったと思います。そのために、我々もフリーマーケットや御輿などいろいろイベントをしますが、正直いって儲けがつながってこないのが現状です。
小林社長のお話の中で、儲けに対する一つの考え方として、世界に通用する商品や、人に受け入れられる商品の開発の話が出てきましたが、そのためには一流の設備がなければ不可能ではないか。それには莫大な投資金額が必要で、中小企業あるいは零細企業ではできません。それらに投資可能に至るまでの、プロセスの一端を教えてください。
廣江(コーディネーター)
「一流設備」ということについての質問ですが、逆をいえば、それがあればいいのかということにはなりませんか。なぜそうお考えなのでしょうか。
小林(話題提供者)
私どもは今年で31年です。操業3・4年は金融面で苦労しましたし、思い切った設備投資にはすぐ資金的な問題を伴いました。最初お世話になったのは、産炭地振興資金です。これは芦別市に立地しているので、この資金は比較的容易に調達できました。産炭地振興資金で、ある程度の設備をし、次に北東公庫に私どもの事業の、地域社会における必要性、将来性、世界マーケットにおける需要など先の見通しなどをよくご説明しました。創立後10年以降から20年くらいまで、北東公庫に大変お世話になりました。私は公庫に、条件変更を申し入れたことは一度もありません。当然のことですが金利も何もかもきちんとお払いし、ただ、非常に厳しいときに思い切った設備投資をするうえで、政府系金融機関としてどちらかというと安心して拝借できた面があります。
ちょうど10年前くらいからは、ご承知の通り大変順調に運び、本格的に大きな利益が上がりだしたのは、12・13年前からです。お陰様でグループ全体を含めて10数億のキャッシュフローがあり、今年はこれだけの円高なので好転を予測し、そのキャッシュフローの範囲内で思い切った設備投資をしました。先ほども申し上げた通り、私どもの製品は世界のどこに出しても簡単に負けないのではないか。やはり高度な設備は、私どもの進出あるいはコストの競争力を生んでいると思います。誠に僭越ないい方ですが、非常に順調に来たように見えますが、当然いろいろなことがありました。市中銀行は新規事業にあまり思い切った金を出しませんし、私は北東公庫から借りたので日本の政府系の銀行に対しては評価しています。
廣江(コーディネーター)
今のお話には二つの内容があり、商業と製造業を同一に考えると少々無理があると思いますが、共通する点は政策金融はかなりたくさんあるということです。皆さんの中には、行政で融資担当の方もおられると思いますが、頭の中で政策融資あるいは助成制度がどのくらいあるかわかる方はほとんどいないと思います。多分何年かでポストが変わってしまうので、慣れたころには異動してしまうので、十分理解できないのかもしれない。政策融資がたくさんあることの善し悪しは別として、あるものをどう使うかが必要だと思います。ただ、小林さんの会社のように「条件変更」できるということは、条件変更に値する会社であって、そのことをうまく説明できるからです。民間と政府系金融機関は違いますが、いずれにしても、審査をしっかりして投資しようと判断するわけですから、投資を呼び込むだけの会社の実力・価値をうまく説明できなければなりません。おそらくそういうことが、小林社長の会社ではせきたのだと思います。
となると、先ほどいったたくさんある政策融資、助成などをどう使うかという点では、自らがどういう状況にあり、どうなっていくかということを説明できるかどうか。その存在の価値を示すことが、これから益々問われると思います。数日前の日経新聞でも、中小企業に対して甘えてばかりでいいのかという記事があり、ではムチを振るのかと授業で話したら学生たちは笑っていましたが、それではムチとはいったい何か、競争とは何か、ということになります。正直いって競争は当たり前ではないかと私は思います。だからばらまき行政だという批判は当たっている部分があると思います。しかし、反対にそれではどうあればいいのか、行政施策を行う側と、それを受ける側とがどういう新しい関係になっていけばいいのかについては、後でまたお話したいと思います。ただ、政策融資だけで地域を活性化するというのは、地域で事業を行っている人々にとっては大変失礼なことだと思います。
藤田(フロア)
小林社長に伺います。お話を聞いていて、私は先日亡くなったソニーの盛田会長の言葉を思い浮かべました。あの方が90年代始め、雑誌にこのままでは日本の企業は大変なことになる。ヨーロッパの企業と比較し、日本で直さねばならない6つの点を挙げ、安い賃金や長時間労働、下請企業をいじめすぎる、配当が少ない、環境整備、地域社会に貢献していない、これらを警告しました。社長は、地域社会に貢献する、雇用を増やす、大きく儲けて税金を納めるといわれましたが、現在のリストラの嵐は大変なことになっています。トヨタの奥田会長も「首を切るなら自分の腹を切れ、首を切れば当面の経営難は乗り切れても、労働者が会社を信用しなくなるのでないか。これは将来の経営にとって大変である」と最近発言されたようです。本当に新しい地域の産業を展開し、豊かな地域にしなければならないこの北海道ですが、リストラの嵐の中でどのように地域産業を組み立てていけばよいか、小林社長のご意見をお願いします。
廣江(コーディネーター)
そのご質問は、これからの話になってくると思いますので、今までのお話の内容とは違うような気がします。後ほどでよろしいでしょうか。新しい地域の産業を興すにはどうすべきかという質問でした。今までの内容に副ったご質問はいかがですか。中野さんも大変ユニークな発言をされ、さすが十勝の方だと思いました。
佐藤(都市学会理事)
中野さんにご質問します。先ほど、農村で都会の人々の問題や苦しみを解決できる面があるといわれました。その中で、今お出でになっている方々は、道内が多いのか道外からが多いのでしょうか。もう一つは、都会で生活している人のいろいろな悩みを解決することが、どのように事業と結びついているのかお聞かせください。
廣江(コーディネーター)
都会の人の悩み事を農村で解決できるといわれたことですね。それにお答え頂く前に、来られるお客様が、単にレストランを利用するだけでなく、何か農業の作業をやりたいとか、幾つか種類があると思います。それも含めてお答えください。
中野(話題提供者)
夏のシーズンは本州のお客さんが多く7・8割、道内は札幌を中心とした方が多いと思います。今は12年目で道東に新しい会社を作ったということは、都会の人たちを消費者と考え、その人たちに住宅空間を経験してもらおうと始めたわけです。たくさん木が生えていて自然がいっぱいのところで老後を過ごしたいとか、こういうところで子供を育ててみたいという都会の人がたくさんいます。ただ、たくさんはいても、田舎に不動産屋があるわけでもなし、行政もそれほど土地を提供してくれるわけでもない。都会の人がどうやって土地を求め、どういう風に家を建てて住めばいいのか、第一歩でつまずいているわけです。まず自分の農地を転用し、住宅を建てるため犠牲を払って頂き、私は土地を売らず、賃借しています。それは、色々な場面で農村の土地を分譲する行政のやり方を見ていますが、一度分譲してしまうと、環境がよくてそこに住んだはずが、都市の住宅地と同じように開発されてしまい、10年もするとミニ都市がそこに来ただけというところが多く、その反省を踏まえて死ぬまで賃貸をするかたちで、環境を売り物にしています。
廣江(コーディネーター)
分譲したいというのは、中野さんが考える一番良好なその地域の姿を保持していきたいということですね。そうしないと違う方向にいってしまう。確かに農地転用することで、うまくリゾート開発にもっていけたという例を自慢する首長がかつていました。しかし、その例も見事に失敗したのは、行政の独りよがりだったからです。そう考えると、地域の民間サイドから土地の利用をビジョンをもって規制する方がいいかもしれません。もう少しお伺いしますが、住宅空間を提供することは、そこに移住してくる人たちに住宅を提供するのですか。
そういう方が移ってきた場合、その人の持っている体系や能力をどのように生かしていますか。単に住んでいればいいとは考えていないですね。
中野(話題提供者)
そうです。我々のところに住んでみたいという人たちです。
画家や大企業を定年退職された人などいろいろな方が入ってこられ、様々な話を聞き、知恵も拝借しているところです。
廣江(コーディネーター)
それはまたこれから考えるということですね。
加賀屋(都市学会理事)
お二人の話をお聞きし非常に勉強になったし、あまりデスクワークばかりしているとまずいなという感じを受けました。お二人に共通して伺いますが、小林社長がいわれたように守備範囲の中で皆さんがそれぞれ努力し、それぞれのことを生かすということが非常に経営の立場あるいは産業活性化からいっても非常に大事な考え方だと思いました。ただ、産業というのは基本的にいろいろなかたちでつながりが必要であり、先ほど金融面でのお話を伺いましたが、北海道の中で、今の事業を中心とした産業の連関といいますか、ネットワークをどのように考えられていますか。
中野さんには、仲間づくりをしながら、今のファームインをベースにした産業を興していこうというお考えのようですので、今後ネットワークとして、自分の部分と周りの部分、その関係についてお伺いします。
廣江(コーディネーター)
北海道のネットワークの中には、仕事の取引関係や、受発注の関係も含めて考えてよろしいですね。
小林(話題提供者)
道内での取引先は、帯広に1軒だけありますが、99%は道外ならびに海外です。道内における資材の購入先は新日鉄で、使用内容の約50%程度頂戴しています。道外の取り引きは本当に少ないです。海外27カ国、約110軒取引先がありますが、毎日ファクス、電子メールで私のところへ報告があります。読むのに時間がかかるので読ませて、重要なことは即時に指示します。私自身も得意先の内容など全部分かっているので、すぐ指示ができます。ですから朝約1時間くらいで、その日の世界のマーケット、上海工場の重要な出来事その他をだいたい掴んでしまいます。
廣江(コーディネーター)
では、生産段階では、例えば道内の企業との関連性はないのですね。今後、国際的にいろいろなかたちでたくさんのお客さんを見つけようということですね。
小林(話題提供者)
そうですね、私どもが貿易を始めてから30年ほどですから、海外のお客さんほとんどを手に取るように分かっています。正しいユーザー、法定ユーザーの開拓は将来あるでしょうが、販売に関しては世界市場のほとんどを開拓してしまっています。
廣江(コーディネーター)
道内との連携は、小林社長のところにあるポテンシャルと連動するような企業ではないということですね。
小林(話題提供者)
需要が少ないんです。北海道をマーケットとして考える場合、いろいろ問題があります。ただ、生産地として北海道は非常に魅力がある存在だと思います。
廣江(コーディネーター)
その点、私からも伺いたいと思います。以前苫小牧市で、T自動車が来るというので自動車関係のシンポジウムを行いました。その人選や内容について私が企画しましたが、敢えてM自動車の方に来て頂き、いずれも技術関係者にお話しして頂きました。その際に、M社の方が基調講演をし、T社の方がパネリストに加わるのはいかがなものかといわれましたが、それでいいと私は押し切りました。会社の格が違うというか、道内に立地するところとしていないところの違いです。その時、M社の方が非常に印象深いことをいわれました。
M社はM重工の自動車部門が独立した企業ですが、外注部品メーカー、いわゆる協力企業や下請け企業を多くは持っていませんでした。しかし、供給能力を高めるためには必要だ。そこで、M自動車はどうしたかというと、自分たちも戦後生産力を拡大する中で外注企業、協力企業を育てようとしてきた。しかし、育てきれない。T社はいろいろ批判もされることがあるが、三河という地域を中心にたくさんの外注企業を育ててきた。M社の方によれば、あれだけの協力企業・下請け企業を育てるのに大変な努力がいるということです。このお話は、地域の側からみればたくさんの企業が関連して育ってくる、製造者のネットワークが育ってくるということです。私は北海道にとってそれは非常に望ましいと思います。そういう頭でいますから、小林社長が99%道外だといわれると、ちょっとどうかなと考えてしまう。しかし、小林社長は北海道が生産基地としては魅力があるともいわれたので、どうすればその魅力ある部分を実現できるのかお伺いします。
小林(話題提供者)
立地条件としては先ほど申し上げたように安定した風土、土地が安いとか、物流・情報において全く支障がない、こういう基本的な輪郭がしっかりできていると思います。もう一つ、経営者が独自の価値観に基づいて、非常に理想的な生活環境にしやすいのではないでしょうか。大都市では数千坪の庭などは不可能ですから、欧米に比しても見劣りしない生活空間を作ることは、北海道の地方都市で可能であろうと思います。私自身、北海道の地方都市における1つの生活の喜びを噛みしめております。仕事だけではなく、自分の生活環境、従業員の人格などをトータルに考えれば、北海道の地方都市はじっくり腰を下ろして、いい仕事をするには非常に向いていると感じています。
廣江(コーディネーター)
初対面なのにしつこく伺って申し訳ありませんが、今の話にはちょっと引っかかります。環境としては非常にいい。ですがそれは「やった結果いい」という結論ですね。道内にはいろいろな産業があり、小林社長のお仕事にやや近いものもあるだろうが、技術や製造過程には様々な違いがあるだろう。仮にそういうところで小林社長が地域に根づいて仕事をされていく場合、敢えて道内に自分の仕事を引き受けられる、技術的に高度な加工ができる企業を育てようとは考えなかったのか。あるいはその考え方は違う、という反論があればそれも含めて教えて頂きたいと思います。
小林(話題提供者)
私どもが50%株を取得している直系の下請けがあります。これも創立して約20年になります。既に亡くなった前の経営者が、執拗に一つのことを追いかけ、手が器用で、10時間20時間でも仕事をする。ある意味で現場でやる気のある人でも、ちょっと高度なものを下請けに出すのに10年かかります。なかなか簡単に裾野作業とか関連会社を設立するのは難しいです。
廣江(コーディネーター)
難しいことを承知で敢えてお伺いしました。要は、是非御社の仕事をしてみたい、20年かかるかもしれないが腕を磨いていきたい、そういう人たちがもっと出てこなければ北海道にある製造業の基盤が育たない。御社のみの力で掘り起こすような雇用効果以上のものが生まれてこないということにもなりかねません。多分、北海道で戦後ずっと足りないのはその点だと思います。経営者という立場から、どのようにご覧になるか、どうすればいいか、もう一度お願いします。
小林(話題提供者)
関連事業の可能性ということでは、会社に20年30年勤め、十分高い技術を習得し、なおかつ私どもの経営哲学にそれなりの認識がある方ということになると思います。
廣江(コーディネーター)
そうでしょうね。それが分からないと取り引きしにくい。そういう点では今のところ御社の仕事を受注できる道内企業はないですか。
小林(話題提供者)
一軒、部品の製作です。
加賀屋(都市学会理事)
今のお話を聞いていると、最近は産業クラスターなどいろいろいわれており、ある程度道内でトータルに物を考ることが北海道の考え方のようです。例えば、小林社長の会社のように、北海道の枠内だけでなく全国レベル、あるいはグローバルな考え方から北海道に立地するという考え方の企業が、どちらかというと北海道にとって有利だと思います。全ての産業が北海道は高いとはいえず、育てていかなければならない部分がかなりあると思います。しかし当面は、育てるより新しいものを北海道に誘致し、道内の枠の中だけでなく、広い視点からシステムを考えなければならないと思いますが。
廣江(コーディネーター)
私は道内の企業をどう育てるかと話しましたが、それにこだわらず仕事ができる人がいれば、もっと北海道に来てもらえばいい。それも日本だけでなく国境を越えてもいいわけです。北海道は環境からいって国境を越えて人を呼びやすい、そういう有利な立地にはありますから。
小林(話題提供者)
私は北海道に新しい産業は芽生えると思います。若いクリエイティブな方が、北海道の地方都市で、それなりに通用する企業を創造するとみております。
廣江(コーディネーター)
その点は後の新しい産業おこしということにも関わってきますので、再度触れたいと思います。中野さん、先ほど仲間づくりという点でご質問がありましたが。
中野(話題提供者)
民間で十勝農村ホリデーインネットワークをつくりました。全体を1つにまとめた仲間づくりですが、全道のネットワークも来年夏くらいに立ち上げる予定です。あくまでも民間でつくっていこうというもので、官が入らないことが前提になっているような、非常にかたくなな会です。農業、特に補助金付きが当たり前で育ってきた我々ですから、自分のことは全部自分でやろう。勉強会も自分の金で勉強しよう。ただの勉強は身につかないとして、どこまでも民間でやろうというものです。
廣江(コーディネーター)
具体的にどういうことをしていますか。
中野(話題提供者)
いろいろな技術や情報の交換をしていますが、最終的には仲間でありライバルであり、お互いに刺激し、競争し合う仲間です。傷をなめ合うような仲間ではなく、お互い挑戦し合うような仲間です。
廣江(コーディネーター)
今のお話のように、自分たちの力でやるという点に非常に共感します。これは北海道だけでなく、行政頼りが結構多く、それではうまくいかないことも分かって来て、また行政側も気がつきどうするか考え始めました。行政がいらないというのではなく、行政と産業なり人の営みとの関係をどうするか、新しく問われていると思います。会場に多分多数おられながら沈黙を守っている行政の方、この場ですからご自由な発言をどうぞ。
これは有名な例なのでご存知の方が多いと思いますが、富山県山田村で全世帯にパソコンを配布した例があります。これは行政が行いました。いろいろ興味深い例ですが、その後をどうするかは考えていなかった。たまたまお金が使えたからやってしまった。でも私は、やらないよりやった方がよかったと思います。そうしなければ、次をどうするかということも考えません。そこまで考えたかどうかは分かりませんが、行政の立場としてはお金が使える限り、それを渡すから後は自分たちで考えよ、ということでもいいかもしれません。
その後、自分たちでどうするか、ということが始まります。高齢化の進んだところですから、高齢者にパソコンはいかにもミスマッチで、当然使えません。せっかく貴重な箱がある、箱は使わなければただの箱だ。使うにはどうすればいいか仲間が集まり、さらにこの点が非常に面白いと思いましたが、早稲田大学理工学部の大学院生がそこへ行く機会があって、たまたま箱が配られ皆さんが困っているということがわかった。そこで、自分は知識があるからパソコンを使えるようにしましょう、という協力関係をたくさん作っていくわけです。その中で次に、自分たちの地域を見直してみよう、パソコンを使いどういう情報発信ができるか。今生産している農業製品を、どのように商品化できるかなどと考えていると、今度はマーケティングが専門の学生が来て協力を申し出たりする。
これは一つの方法だと思います。先ほどイベントの輪が広がっているか質問しましたが、輪が広がるような試みを自由にやっている例です。そういう意味では、よそ者も自由に加わり、自分たちの価値観を守りながら、しっかりとしたまちづくりをすることは非常に重要だと思います。そういうものを行政がどのように見ていけるか。それは非常にむずかしい。山田村でも中央官庁との関係をどうするのかを模索しているそうです。地域でパソコンを使うという事例としては、うまくいっている例なので、お金が欲しいといえば予算も付きやすい。しかし、すぐくれます。敢えてそれをいわず、自分たちでやっていくために民間と行政の関わり方を模索しているわけです。
北海道で行政の方々が新しい産業をつくっていくとか、地域政策を考える、といったことでいうと、今までこのような意見が出されているが、自分はこういう考えを持っている、ということがあれば是非ご発言下さい。遠慮深いようなのでおいおい伺うことにして、話を少し先に進めましょう。
私はお二方のお話を非常に興味深く伺っており、さすが経営者、事業を行われている方というのはいろいろお考えになっており、様々な失敗はあっても自信に裏打ちされていると思いました。私が重要だと思うのは、産業です。さらに産業もあるいはまちづくり、サービスなども、最終的には人になっていくと思います。経営者としての人をどうつくっていくか、あるいは優れた従業員はどうつくっていくか。新しい世代を担うような創造的な人たちをどうつくっていくかは、かなり重要なことだと思います。
前述の小林さんへの質問にも関連しますが、社員の中で、能力のある人がいたとすると、自分の経営のノウハウを授け、何か新しい事業をさせてみる。あるいはできる人をもっと北海道に呼び込む、こうしたことをお考えかどうかお伺いします。
小林(コーディネーター)
私どもの上海工場は500名の従業員です。総経理は中国人です。この総経理は室蘭工大の冶金の方で博士号をとらせ、私どもの工場で3年間研修しました。マネージメントの点では相当手厳しい教育をしました。現在は上海工場の総経理をしていますが、そのお陰で非常に順調に操業しております。これは1つの人材ではないかと思います。この成長を3・4年見て、状況によればマネージメントとして信頼したいと思います。現在、上海工場には技術屋が1人いるだけで、全部中国人です。
国内において、この人にはこの適性がある、この点では使えるのではないかと思う者が、500人の中に非常に多い。人間だれしもがトップマネージメントに参画できるわけではないし、中堅管理者として、あるいは現場の責任者として優れた人材は企業にとって必要です。それを見極めるのがトップの仕事ですが、私が嫌いな言葉に人材があります。その理由は、何が人材なのか、どういう仕事ができるのか、すぐれた頭を持っていても、ちょっとしたショックで仕事ができない。すぐ疲れてしまう、これは人材ではない。人材という言葉を使う場合はもっと慎重に、誰ができるか、業績にどう生きていくのか。ですからやはり適材適所ということになると思います。嫌いな言葉である人材については、非常に判断が難しいです。
廣江(コーディネーター)
総経理というのは、日本の社長に当たるお仕事ですか。そういう方が室蘭工業大学を卒業されたというのは興味深いですね。留学生と話していてよくいわれるのが、日本人はどうして欲がないのかということです。何の欲かというと、なぜ自分がトップに昇ろうという欲がないのかとよくいわれます。確かにトップマネージメントを行っている小林社長からすれば適材適所、将来的に能力のある人がいた場合、その能力を発揮させる条件を与えることも必要だと思います。しかし、場合によっては自ら独立することもあるだろう。この方法は、従来日本の経営者の多くがしてきたことですが、現在はそぐわないかもしれません。
であれば、労働力ではなく「人材」といいたいのですが、要は人を育てることが必要だろう。そこで小林さんが経営者としてどのように人を育てようとされているのかをうかがいます。私は地域に根づいた企業の場合は、経済的な波及効果だけでなく、人を育てる役割が大きいと思います。
小林(話題提供者)
私は、人間そのものが持っている基本的な能力、やはり器があるのではないかと思います。室蘭工大のほかに、北海道大学工学部の大学院を卒業し、中国に行った者が2人おります。どちらに軍配を上げるわけではないですが、トップマネージメントとしての器の大きさは、中国で苦労して勉強し日本の大学に入り、一生懸命やってきた人間の方が、ひょっとしたらトップマネージメントとしての資質があるのではないか、そんな印象を持っております。芦別の地元出身でそれなりの人材は、中間管理職としていいと思う者は多いのですが、国際企業としてマネージメントは日本人でなければならないという考えは間違いです。
廣江(コーディネーター)
それはそのとおりです。地域の中でそういう人たちをどう育てていくかというときに、その対象は中国人かもしれないし、それ以外の外国から来る人かもしれない。やはり出目にこだわらず地域の中でそういう人たちが育ってくれると嬉しいわけです。それにしても、地域産業の担い手はそこで生活していく人々である必要があります。その人たちをどう支援しようとお考えですか。
小林(話題提供者)
支援というのはなかなか難しいです。伸びる者は食いついてきますから。
廣江(コーディネーター)
放っておくといいんですか。
小林(話題提供者)
放っておいても伸びていきます。ポイントを掴んできます。人を育てるのに、あまりに機会提供が多すぎるといけない。甘えが出てきます。
廣江(コーディネーター)
どういうものを目指すかという点では、たくさんの選択すべき機会のあることは非常に重要だと思いますが、日本の場合はそれが少なすぎるというところがあります。たくさんの選択肢があり、その中で自分は何をしたいのか選択する能力をつけることが必要でしょう。
中野さんにお伺いしますが、事前に市職員の方から頂いた「新明日をひらく」という標題のレポートがあり、「生き生き夢レポート」の中で、都市と農村の交流で新しい農業経営確立へ、その中で十勝全体にファームインを広げ、ネットワークしていくとあります。私が小林さんにしつこくお伺いしたのは、企業という組織の中でどういう人間と人間の関係をつくり、高いレベルに達していくのかということです。これは企業の中だけでなく、仲間同士の横のネットワークもあり得ます。十勝全体にファームインを広げ、ネットワーク化を図ることは、同じ考えの人たちが互いに情報交換していくことだと考えます。そういうものが生まれてくると、情報交換の中で優れた能力を伸ばしていくことができるかもしれない。この記事を読んで、そんな気がしていました。この記事は簡単なものですから、詳しい内容が分からなかった。もしご記憶にありましたら、どういう狙いでどこまで進んでいるのかお教えください。
中野(話題提供者)
十勝は農業生産2,000億円以上という農業王国ですが、その中で我々のレストランや宿泊施設は、今までは生産者と消費者に完全に分かれ、農協という組織の中で消費者も我々も理解しあえなかった。しかし、農村にたくさんの人が流れ込み、生産現場も見られます。これはいい意味でも悪い意味でも見られますし、農業を理解して頂けます。いかに十勝といえども農産物価格が非常に高く、ヨーロッパ価格から見ても何倍もするものを作っているわけですから、安全だといっても消費は伸びません。正しく理解してもらい、作る側も見られることで姿勢を正し、よいものを作ろうという意味です。都会の人たちが入ってくることにより、十勝農業全体を様々な面で理解して頂き、サポーター役というか応援団、お客さんになってもらうための第一の窓口であり、都会の人たちに加わってもらう第一歩になるかと思います。
廣江(コーディネーター)
今現在はどのようなことをされていますか。
中野(話題提供者)
地元で作った物を食べて頂いたり、体験して頂くことです。牛や馬に触ってもらったり、搾乳してもらう。野菜も直に手に取って収穫してもらいます。
廣江(コーディネーター)
農業から得られる収益、生産性を含めて、低下させるのではないかという批判はないですか。
中野(話題提供者)
収益性はどうやっても国際的には勝てません。勝てないからには都会の人と仲良くして、高くても買ってくださいというところに持っていかないと。国際的な価格と戦おうとしているからだめなんです。私はそちらの方は向いていません。
廣江(話題提供者)
国際的な農業自由化の中で、競争関係をどう見るかという点で、国内市場で海外製品と競争するだけでなく、お客さんをどのように味方につけるかを考える。そのため自分たちの農業を理解してもらい、その上で買ってもらう。そうすれば、高くてもどこが違うか分かるだろうというお話ですね。小売りでもそういう努力をしている方がいました。例えば産地を明記し、高いけれどもいいものであることがお客さんに分かるよう、情報を与えている。お客さんもお店を通じてどの農家はどういう考えで生産しているのかを理解できる。北海道に来るにはまだ航空運賃も高いので、直接来て頂くだけでなく流通全体にそういう仕組みができる必要があります。
中野(話題提供者)
今我々のまちでも農業が変わって、大手のスーパーなどが直接介入してくるようになりました。おそらく資本も提供してくると思われます。口も出すが、いいものなら売ってあげるというかたちにどんどんなっています。
廣江(コーディネーター)
農業を実際にされている方から、自分たちの農業をもっと発展させ、豊かにする方向に変えていくにはどうすればいいとお考えですか。今のは比較的受け身の話ですね。大手スーパーが入って来てどうだという話はありませんでしたが、農業をしている立場からどうなれば望ましいのか。大手だからいい悪いではなく、どういう流通で最新の製品をお客様に届けることを一番望んでおられるのか。
中野(話題提供者)
十勝くらいの生産になると、宅配便で物を届けるくらいの生産ではありません。そうなるといきおい農協や業者と関係がなければ解決できません。そのようにメジャーになってくる部分と、小さくても光ったものを作っていくところとに別れつつあります。
廣江(コーディネーター)
小さくても光っている方ですね。お二方とも経営者として、それぞれの価値観を持って仕事をしてきたことがよく分かったと思います。
それでは次に、域に何を期待するのかというお話に移らせて頂きます。狭い意味でこだわる必要はないですが、先ほど新しい地域の産業をどうつくっていくかという質問がありましたので、それにもお答え頂かなければなりません。要は、絶えず繰り返しいわれてきた北海道の産業を発展させるという命題があり、これには相当大きな政策資金が注ぎ込まれている。しかし批判的な方は、お金を「ドブに捨てる」という言葉を使っています。他方では北海道の産業を育てていこうという努力を皆さんがしています。しかし、もっともっと発展した方がいいわけです。それには今何を変えなければならないか、どういうところにどう労力やお金を使えばいいか、残り時間はそれらのことを考えたいと思います。
お二方にそのお話を伺う前に、今どうすべきと考えているのかフロアの方にお聞きします。私はこう考えこうやっている、あるいは自分は農業をしていないがこんな考えがある、何でも結構です。新しい産業をつくっていく場合、または既存の産業を発展させることでもいいでしょう。いずれにしてもどうすればいいのか、意見をお伺いしたいと思います。
市職員(フロア)
私は市役所勤務ですから、倒産することのない職場です。中野さんのお話では、行政からの助成金や補助金を一切使わず、自分たちの汗を流したお金でやっていくということでした。私は行政の立場からは地域の産業おこしや、民間産業の発展のために、国や道、町の助成金をいかに投入し、皆さんの100円のコストを10円20円にできるか考えています。たくさん助成金を持ってくるため、行政の立場は一種の営業という考えをもっています。国や道、市も全部皆さんの税金ですから、それらを投資しながら産業のコストを軽減させていこう。そういうかたちで地域の皆さんと仲間づくりをしていこうと考え、民間の方の中に入っていき、一緒にまちおこしをしていきたいというスタンスをもっていました。中野さんのお話ですと、なかなか行政の人との仲間づくりができないのではないかと思いました。行政の私の立場からいえば、最初の産業おこしについて、皆さんの税金ではあるが国や道、市の助成金の中で事業を展開してはどうかと思っています。
廣江(コーディネーター)
先ほどの私の問いに対するお答えでもあります。そこで一つだけ教えてください。市の立場から具体的にどういう仲間づくり、地域産業を動かす母体をつくっておられますか。
市職員(フロア)
私もまちの人たちのイベントに、プライベートな立場で参加しています。ハードの面では実際に国から助成金をもらい、コスト面にかかる経費の削減をしています。人的という表現はよくないかもしれませんが、自ら汗を流し当日の会場設営や細かいお手伝いをし、自分も楽しんでいます。苦しかったりすると長続きしないので、自らも楽しむかたちで仲間づくりをしていく。極端な言葉でハードとソフトという分け方が妥当かどうかわかりませんが、そのように考えています。
廣江(コーディネーター)
送って頂いた資料の中に芦別市のパンフレットがありましたが、非常に沢山のイベントがあり感心しました。これだけ多くのことができる市町村は少ないと思います。ただ問題は、イベントは何を目的にするかです。1つは楽しむことがありますが、しかし、行政が行ったイベントについては結果評価がないことが一番問題だと思っています。イベントについても結果評価をすべきで、行政のイベントなら特にそうです。今手がけておられるもので、自らが楽しむことは非常に大切なことだとは思いますが、結果について評価などはしておられますか。
中野(話題提供者)
行政はつぶれないといいましたが、それは間違っていませんか。つぶれてはいませんか。この都市問題会議の裏に隠れているのは、お金の問題ではないですか。人間尺というのは、人間尺にする以外方法がなかったからではないですか。私はリストラも好きでやるわけではないですが、一番最後に残っているのが行政のリストラだと思います。経済を無視し、何でもしていいという考えをどこから持ってきたか知りませんが、正直いって非常に腹が立ちます。まずまちづくりの第一歩は、行政自らが大リストラをし、市民に受け入れられるようなかたちで向かわなければ、口では市民参加といいますが、そうはならないのではないですか。私はそう思います。税金を使う側には本当に慎重になってもらわないと、60年も70年も経ってから返せばいいなど、とんでもない話で国を動かしていますが、金を持ってこいという考え方が北海道をだめにしていると思います。サービス精神が出てこないのは、ただで物をもらって乞食になってしまったからではないですか。今日のフォーラムも、皆さんは出張旅費をもらって来ていますね。勉強なら自分で金を出しなさい。問題はそこにあると思います。はっきりいってそんな厳しさがあれば、こんなフォーラムは必要ありません。
廣江(コーディネーター)
経営者自らが汗を流すといわれましたが、自分で負担しリスクを負って事業をやるということですね。もうつぶれている行政が結構ありますが、今まではつぶれないという前提でやってきたということで、そこがおかしいという指摘ですね。
中野(話題提供者)
市民の方もそう思っていると思います。責任を持たないからそうなるということです。責任をとらなくていい。我々は誰にも何もいわれませんが、最大限倒産という責任を負わねばならず、そういうものがもつれてくると、お金の使い方も投資の仕方も変になるという気がします。
廣江(コーディネーター)
中野さんがおっしゃるのは、今の行政で最も負の部分です。しかし皆さんは奇麗事をいってしまい、したがって自分がしたことを評価するのは一番厳しいことになります。しかし、それをどう見ていくかを真剣に問わなければ、次に進めないと思います。リストラというと我々はすぐ首切りと考えますが、それもあるでしょう。でも本当はどういう方向でリストラをするか論じることが必要なのです。どういう方向に、ということを私は積極的に議論したいと思っています。例えば、民間が自分たちでやっていくから、では行政は全くなくていいかというとそうではない。だから行政がどういう方向に変わればいいのかが問われる。あるいは変わること自体意味がないのか、その辺はどうですか。
中野(話題提供者)
行政にしかできない仕事はありません。教育にしても民間の私学などがあるし、福祉もこれから民間でやっていきます。医療も民間の病院があります。その中で行政が絶対にしなければならないこと、行政にしかできないことは何か、行政関係の方に聞きたいのですが。
廣江(コーディネーター)
非常に難しい問題ですが、どなたかいかがですか。
棟方(フロア)
行政でなければならないものは、まず大枠の問題だと思います。大きな流れの問題です。教育にしろ何にしろ民間でもできることです。ただ、大枠をどのように使うかについては、ある基準が必要でしょうし、それ以上ブレないよう規制が必要でしょう。中野さんには申し訳ないのですが、行政の仕事でお付き合いしているうえで、いい人に恵まれなかったのではないかと思います。それは残念だと思います。空知支庁では新しい産業を興すため、協議会を作りました。我々だけでなく、民間人も含めた形で設立し、共同で何かをやりたいという人を手助けできるインフラ、枠組みだけを作ろう。あとはそれを利用して、自分たちのものにしていくかは皆さんの努力です。これからの行政は、教育の枠組みもそうですが、ソフトでもハードでもいいのですが、インフラという大枠を用意し、その中で皆さんも努力してくださいということではないかと思います。そのように行政も変わっていかなければならないと考えます。ただ、これには本当に時間がかかります。その辺は中野さんにもよくご理解頂き、行政と一緒にお付き合いして頂ければと思います。
廣江(コーディネーター)
行政だけでなく、企業もそうですし、我々大学もそうですが、相当大きく変わっていかなければならない条件にはあります。その中で多分一番必要なのは、中野さんのお話にあったように、自分たちの仕事にどういう価値があるか、それぞれの組織が自らの存在価値をどう評価するのか。その辺りが大変重要だと思われます。その点で、例えば行政の仕事を見た場合、行政は1人の人間が代表しているわけではない大きな組織ですから、1人の動きと組織がどう動くかは違ってくると思います。その中で何をこれからしていけば地域がもっとよくなっていくのか。新しい行政の価値を見つけていく、その価値を生かすために1人の人間が働きかけることをしなければ、新しい産業は生まれてこないし、その産業を担おうとする人たちも出てこない。そういうことにもなるかもしれません。
私はこのことが非常に重要な問題だと思います。
別途議論する時間がありますので、もう一つお伺いしたいこともありますので、それについてご意見を伺っていきたいと思います。統計をわざわざ出すまでもなく、最近の北海道の国勢調査、人口の移動等を見ていると、以前と同じようにまず札幌が受け皿になり人口が増加します。それ以外の市町村は、概ね人口減であり、札幌を経由して外に出ていってしまう構造になっています。私が冒頭で、お年寄りに商品を売るのが商店街の役割だという発言に対して、それはそうだが、お年寄りがいなくなったらどうするか、つまり先の問題をどうするか。若い人たちは場合によっては出て行くかもしれないが、小林さんがいわれたように郷土を愛し、自分たちの地域で生きていくためにどういう装置を作っていくか。行政がインフラをいう場合、どう作っていくか、それが十分話し合われるべきです。
例えば、私はいろいろな人に来てもらい大学で話をしていただきます。面白いと思ったのが、イタリア人による優秀な人間は都会に行かないという言葉です。彼はナポリの田舎の人間ですが、自分たちのまちで生きていき、家族と共に幸せに暮らしたいといいます。そこでその気持ちを生かすような経済の仕組みをどう作っていくのか、これが非常に重要になってくると思います。小林さんがいいことをおっしゃいました。郷土をどう見ていくのか、それを若い人にどう伝えようとするのかということです。これから、この点についてお話ししていただきたいと思います。
郷土愛をいわれた小林さんに、第二の故郷、それを若い人にどう伝えるか、その点をお教え願います。
小林(話題提供者)
人間の生涯において、ふるさとがある、あるいは生まれた場所でなく育ったところがあることは重要なことだと思います。自分が生まれ育ったところがいいとこである、景色もよく治安もいい、これらがとりもなおさず郷土愛になると思います。快適な生活ができることは、単純なことですが大切だろうと思います。そういう地域社会をつくるために、行政も企業も力を携えていくことが大事だと私は思います。先ほどの中野さんのご発言は正論だと思います。ただ、行政にパーフェクトを望むのは無理な話ではないか。私はある種の妥協もしていかないと、どうにもならないと考えています。
廣江(コーディネーター)
郷土愛は、育ててできるものではないわけです。最近の国歌に関する議論を聞いていても、その前に自分の地域、故郷があるだろうにと思いました。その話はなかなか表に出てきませんね。しかし、自分が住み、生まれ育ったところを好きになることは大切かも知れない。しかし、雇用があり生活できる仕組みができていない点が問題だと思います。1つ重要なのは、意識の前提、先ほど私は自分のゼミの学生を、北海道の企業にインターンに行かせたと申しました。なぜかというと、自分のふるさとを知らない人が若者に多く、知ろうともしない。そこで敢えて、自分の生まれ育ったところにどういう会社があるか、ちゃんと勉強させるために行かせました。もっと自分の地域を知らせることが教育の中に入ってくるべきだし、普段の生活にもなければならないと思います。自分の地域を知ることが軽視されているのではないかと思います。
例えばこれから芦別でどんなことをすればいいか、小林社長にお聞きします。
小林(話題提供者)
芦別に住んでいると、北海道は美しい景色もあり素晴らしいところだと感じます。振り返って芦別もそうであるか。部分的によく見れば、ヨーロッパにも負けない素晴らしい地域だと思います。これが地域を愛する心の、流れの発端ではないかと思っています。この素晴らしい北海道という感覚を、若い人たちの中に自然に植え付けることが、行政や企業の今後の大切な役割だという考えから、この会社をつくりました。
廣江(コーディネーター)
写真集は、だいぶコストがかかりましたか。
小林(話題提供者)
北海道には優れた写真家や芸術家が何人もいます。その人たちを認識することも大切です。この写真家は、世界でも一流で通る人です。
廣江(コーディネーター)
写真家を含めた芸術家は比較的移動が簡単ですから、近くの方も含めて、その地域がよければどんどん北海道に来ます。集まってくる人々を地域で受け入れることも大切です。
この本に関して、見開きに英語でbright of the northとあります。the north、この辺が今のお話につながります。北海道は他にどこにもなく、北海道が世界にthe
northといえるかどうか。いっていきたいという思いをこの言葉に感じ、極めて感動しました。
上には北海道と書いてあるんですが。the northには何か意図がありますか。
小林(話題提供者)
実は北海道(Ezo Island)というマークは、海外で偽物が出てしまったんです。偽物が出て初めて本物になったのかもしれませんが、私はEzo
の名称のアイデンティティをここで表明したかったので、Ezo Islandにしました。しかし全体においては北海道に対する愛情といいましょうか、美しいものに気付かないでいるのはよくないことだと思って作りました。
廣江(コーディネーター)
山の少ないところでは山に登る人が少ない。イギリス人に登山家が多いのは、植民地で高い山にあこがれ登っていたからです。つまり、ないものを求めていったところがある。ですから山登りするのは、長野県の人ばかりではない。自分の足もとの美しさに結構気付かないということは多い。これは真理だと思います。人に評価されて分かる部分もかなりあります。となると、もっと能動的に働きかけ、北海道あるいは空知がもっといいところであるのをどう伝えるか。これは今後の大きな課題で、その中から自分の野心を持ち、いずれ小林さんを超える社長になろう、そんな人たちが現われてくる条件をどんどんつくっていけばいいと思っています。これは大変抽象的な話ですが、具体的にどうするかというときに、行政はどのようにかかわるのかを考えていただきたい。地域にふさわしい人をもっと増やすためにはどうするかお互いに議論し、普段の生活の中で話し合って解決していかないとなかなか地域も変わらないと思います。これは北海道だけでなく、どこも同様だと思います。
これまで出てきた問題は議論が尽きないと思いますが、時間が参りました。これを地域に戻って実践して頂くとして、今日のお話はこれで終了いたします。
稲場(司会進行)
長時間にわたり有り難うございました。これをもって第24回北海道都市問題会議第3分科会を終了いたします。なお本日の日程はこのあと交流会となっております。話題提供者、コーディネーターの方々とおおいに親睦を深めて頂き、なおかつただ今の論議を深めて頂きたいと思います。
明日は午前10時から全体会議が予定されております。本分科会結果の代表報告、総括となっておりますので多くの方々の参加をお待ちしております。以上をもちまして終了いたします。有り難うございました。 |