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◆主用研修課題〜産業クラスターについて 1.はじめに フィンランドはヨーロッパの中でも北欧に位置し、南北に細長く面積は日本の90%位で、人口は519万人と日本の約20分の1で北海道の人口より少ない。 気候はバルト海とメキシコ暖流の影響もあり、高緯度ではあるが比較的温暖である。 国土の68%が森林、10%が湖や河川で森と湖にかこまれた美しい国であり、郊外を車で走ると北海道と似た景色が目にはいる。農作物は麦、じゃがいも、ビート、白菜等と北海道で収穫できる農作物もあるが、気象条件は厳しく収穫量などに影響がでている。 フィンランドの歴史は近隣諸国との戦争による占領の歴史でもある。第2次世界大戦の敗戦国でありこの戦争後にソ連に国土の10%を割譲し同時に賠償金を課せられ、この金額はフィンランドGDPの10%に相当する莫大な金額であった。 この賠償金を支払うのに国をあげて積極的に工業へ国力を集中し、支払期限の半分近い5年で完済した。この工業の発展は、農業国のフィンランドにとって大きな力となった。 フィンランド企業の中で世界的に有名なノキア社は、1990年頃に会社の経営状態が悪化し、それまでの多角経営から情報通信事業だけに業務を特化し、その結果、携帯電話において、世界シェアーの37%を占める世界最大の企業に成長している。 また、フィンランドの政治の面に目をむけると1907年に世界で初めて女性国会議員が誕生、そして現大統領、現ヘルシンキ市長も女性であり国会議員の約3分の1が女性である。 一般社会においても約70%の女性が就労しており、女性の社会進出が際立っている国である。 2.フォルサ市 (1)フォルサ市の紹介 フォルサ市は首都ヘルシンキから120kmで、高速道路を利用すると1時間20分位の近い距離にあり、人口は18,000人でフィンランドの中規模都市である。 フォルサ市庁舎を訪問しタパニ・ベンホ市長からフォルサ市の歴史と概要の説明を受けた。 フォルサ市の歴史は1847年、川沿いに繊維工場ができたのが街のはじまりで、現在は繊維工業の他に食品加工、金属加工、建設機械、IT産業など多くの企業があり活気ある街である。 また、この後調査訪問する高等職業専門学校、アグロポリス(株)などの概要について説明を受けた。 その後、フィンランドの市長選出の話になり、フィンランドの市長は間接選挙でタパニ・ベンホ市長の場合は新聞で市長公募があり20数人の応募者の中から議会で選任された。タパニ・ベンホ市長は就任してまだ2ヶ月とのことです。 フィンランドの市長の任期は一度市長に決まると65歳の定年まで在職でき、タパニ・ベンホ市長は45歳とのことで、「あと20年も市長を務めることができる」とジョークを交えて話してくれました。 また、地方税については各自治体で税率を決めることができ、各市が事業を進める内容によっても税率を変えることが出来るとのことです。 (2)南西ハメ地区とヨーロッパ連合 フォルサ地区開発センター所長ティモ・リィンデバル氏から南西ハメ地区とヨーロッパ連合の話がありました。 南西ハメ地区は、ヘルシンキなどの主要都市へ1〜1時間30分の距離にあり150km圏内にはフィンランド人口の約2分の1の人が住み、フォルサ市と周辺4自治体は広域の産業開発育成を目的に地区開発センターを設立した。 この地域には1,700の企業があり ・食品加工、金属加工、建設資材 ・電気、IT産業 この分野は急速に伸びておりニッテロンという会社はデジタル表示などの製品を開発し、国内はもとより海外にも輸出しており表彰も受けている電気製品製造会社がある。 ・環境技術 ・ゴミ処理施設 広域のゴミ分別処理が進んでいる。 これらの企業育成に対する助成、融資制度がある。 @ ヨーロッパ連合などからの助成 ・助成地域を4段階に分けて助成額を決める が従業員が250人以下の企業が対象である。 ・南西ハメ地区に昨年は224ユーロ/人の助 成金がヨーロッパ連合と国からあった。 機械設備投資に対し 15% 建物建設に対し 10% 開発助成金に対し 30〜50% 助成の対象は革新的な商品開発である、経営刷新につながる、国際化に対応できるものであるなどの助成条件がある。 A 融資制度 国からの融資制度があり銀行から借りるより利子が低く担保条件もゆるい。 企業を設立する時には最初の10ケ月間までの運転資金を、失業者を雇用した時には 19〜35ユーロ/人の融資がある。 これらの助成制度や融資制度もあるので多くの企業があり、南西ハメ地区は活気のある地域である。 現在進んでいるプロジェクトは ・アグロポリスサイエンスパーク ・家族経営農業 ・新製品プロジェクト ・環境プロジェクト などがあり、企業を起こす時、成長期、安定期などに総合的なアドバイスや助成制度などの支援をしている。 3.国立高等職業専門学校(ポリテクニクス) 国立高等職業専門学校を訪問しますと、みぞれ混じりの天気のなか玄関前にヤルノ・トゥイマラ氏が待っていてくれました。 高等職業専門学校は企業と密接な関係を持つ専門学校で、通常は高校を卒業後に入学し企業が必要とする人材を育てることを目的としている学校です。 南西ハメ地区にある高等職業専門学校は4ヶ所に分散し、7,000人の学生と800人のスタッフがいる。私達が視察したフォルサ市にある学校には700人の学生と50人のスタッフがいて外壁が赤レンガ造りの歴史のある美しい学校は昔の繊維工場とのことです。 この繊維工場であったものをフォルサ市が購入して専門学校として利用できるように改修し、学校は維持費を含めて賃貸料を市に払っているが学校運営費のほとんどの経費は国から出ています。 フォルサ市にある学校では、主にIT関連の授業をしており企業に就職してすぐ対応できるよう技能、実務などの高等教育授業を行っています。パソコンを使っての情報伝達、物品の輸送関連などの実習・講義も行っている。 フィンランド各地にある高等職業専門学校は、各地にある他の専門学校ともネツトワークができており、各学校に専任の教授はいますが他の学校との相互授業の乗り入れをしていることも特筆すべきことです。 各地の高等職業専門学校の教授は国家公務員で給料は国から支払われ、学生が年間支払う金額は、学生組合加入代、学生保険加入代として6,000円〜7,000円だけで授業料はかからない。しかし、入学するにあたっては試験があり合格者のみ入学できます。 各地にある高等職業専門学校が企業の発展に寄与し今回の主要課題である産業クラスターにも多大な貢献をしております。 4.アグロポリス(株) アグロポリス(株)はフォルサ市の近くのヨキオイネン市にある会社で17市町村が共同で設立した株式会社です。広域であることから同社にも関係があるテイモ・リィンデバルフォルサ地区開発センター所長も同行いただきアグロポリス社ではマッティ・フッリ社長から説明を受けた。 アグロポリス(株)の説明の前段として国立農業試験所(MTT)の説明がありました。 (1)国立農業試験所(MTT) アグロポリス(株)から500m位の所にMTTがありますが、この試験所は農業、食品関連の試験所でスタッフは950名、この内350名が研究員として働いています。 MTTには農林省から事業費が年間約48億円出ている。このほか、企業からの委託研究も受け、その委託料も事業費として使うことができます。MTTに勤務する職員は地元地域からも採用され、地域に対する波及効果もあることから地域でも期待されている研究所です。 MTTは研究成果を論文として発表することだけが目的ではなく研究成果を実社会に役立ち、生かすことを最終目的としており、周辺自治体はMTTの研究成果を農業にどのように役立てるかを検討し、その結果としてアグロポリス(株)が誕生した。 (2)アグロポリス株式会社 フィンランド農業は、ヨーロッパ連合加盟により農産物の価格が暴落し、効率的な農業、生産性の向上などを図り価格競争に対応する必要があつた。 フィンランドの気候は厳しく競争力をつけるためには、個人の研究などでは限界があり、MTTなどにおいて生まれた成果を農産物の生産から経営にいたるまで実効あるものとするべく産業クラスターとしてアグロポリス(株)が生まれた。 産業クラスターのクラスターとは「群れ、集落、ブドウなどの房」の意味で産業クラスターとは地域の特徴を核として人、金、技術などが結びつき一般的には産・学・官の連携のもと産業群を育成していこうとするものです。 アグロポリス(株)は1995年に始まり現在に至るが、前述しているように周辺自治体 17市町村が共同で設立し、自治体はもとよりMTT、銀行、国立高等職業専門学校なども株を所有している。 アグロポリス(株)の目的は企業化、商業化するのが目的であり、このことからアグロポリス(株)が取り組む事業の最終判断は市場が決めると考え、その観点から @ 食品加工、バイオテクノロジー、新しい手法の開発 A 環境技術の開発 フィンランドは人口が分散し生活排水を処理して河川に放流する汚水処理技術の開発が求められており、このことに対する技術開発はヨーロッパ全体の課題と捉えて今後この分野の技術は急速に伸びると考えている。 B 農業振興 農村の開発事業 C 農業従事者に対するIT、ネットワーク IT、ネットワーク化が進み2分の1近い農家の人がインターネットと接続可能で、フィンランドのように広い面積の中に人口が少ない状況ではネットワークを構築し情報提供、情報を共有することは大きな効果がある。 これらの4項目を主体にアグロポリス(株)は事業を進めている。 具体的には、農業に関する研究のほとんどはMTTに委託しているが、起業者に対する事務所の提供、資金調達の方法、プロジェクトの経営アドバイス、コンサルタント事業、農業従事者への教育事業、企業の新製品開発の手助け、マーケティングの手助け等を行っている。 (3)有機栽培プロジェクト アグロポリス(株)が取り組んだプロジェクトの中での1例として「有機栽培プロジェクト」があるが、ヨーロッパ連合加盟により農業は大きな打撃を受け付加価値をつけた農業をめざそうとの考えが根底にあると思われる。 有機栽培については、国としても前向きに取り組み、対応している事業である。 このプロジェクトの進め方は ・開発プロジェクトに興味を示す農業従事者をさがす。 ・その農業従事者に専門学校で教育する。 ・専門家を派遣して教育、アドバイスをする。 ・MTTに農業技術について研究してもらう など、総合的な見地から支援し企業化している。このようにフィンランドの産業クラスターは、プロジェクトを起こし企業化した時に事業が成り立ち、企業として経営していけるかなどの判断材料を、国などの公的機関が積極的に情報提供し支援している。 (4)アグロポリスサイエンスパークの現在と将来 アグロポリス鰍より一層発展させるために、アグロポリスサイエンスパークが進行中で、アグロポリス鰍ェ中核となりそれぞれ役割を担当している。 @アグロポリス(株)の役割 ・それぞれのプロジェクトが順調に発展するよう調整する。 ・経営アドバイス、経営コンサルタント AMTTの役割 ・農業関連の研究をしており研究の中核 ・大規模な研究 ・MTTで生まれたアイデアを商品化、事業化する。 Bイノタリの役割 イノタリは2002年に設立されたアグロポリス(株)の子会社 ・MTTで研究された革新的な技術やアイデアをもとに起業家を探し新しい企業を起こし、いかに実用化するかの手伝いをする。 C新生企業 ・イノタリの指導により出来た企業が数社あり、活動する場所としてアグロポリス(株)と同じ建物に入居し活動 D技術開発・製品開発部門 ・技術開発・製品開発部門を担当する会社で2003年に設立予定 ・新生企業が具体的に商品開発化する手伝いをする。 ・農業、バイオテクノロジー、食品加工 ・小規模な研究 Eキエトタニの役割 ・全体的な情報管理 Fエロンキエトロの役割 ・最終的に研究開発などの情報公開 各地にあるサイエンスパークは地域の産業や企業、研究所などが一定の地域で進められるが、アグロポリス(株)を中核とするアグロポリスサイエンスパークは、アグロポリス(株)が使用している建物にほとんどの企業が同居する形をとっており、いわば地域で取り組んでいるというよりも一つの建物内に集めて効率よくネットワーク化しているのが特徴ともいえる。 アグロポリスサイエンスパークは、現在未完成ではあるが、循環がスムースに進行し新生企業が創出されると周辺地域の企業も活性化し雇用の確保につながり、結果として周辺自治体の税収増となり南西ハメ地区が潤うことになる。 5.産業クラスターの現状と将来 フィンランドの産業クラスターに対する支援はあらゆる分野で総合的に支援している。 @ 企業を起こす時には事務所が必要となるが事務所を貸す A 企業が成り立つための経営支援・研究・経営陣の外注・事務の委託 B 資金の手当ても必要であるがヨーロッパ連合・国などへの資金調達の手伝 C 企業が商品を売る場合の国内外のマーケティングの見通し・調査 このように総合的支援のもと産業クラスター関連の多くのプロジェクトができ新しい企業も誕生してはいるが、起業家のなり手が少ないのが悩みである。このことは北海道の産業クラスターにおいてもみられる傾向である。新しく企業を起こすよりは現状のまま、あるいは既存の会社に就職したほうが生活が安定的であったり、新しく企業を起こした後の不安などの問題から、起業家のなり手が少ないのが悩みでもある。 また、フィンランドにおいても農業者が年々減少していることも現実であり農業従事者に対する教育や情報提供を充実させ、セミナーなどを開くなど離農を防ぐ努力を重ねている。 新しく農業を始める人に対する対応として農地を取得できることが最初の条件となるが、フィンランドにおいては農業者以外の人が農地を取得する時の制約はなく、外国人でも農地を買うことが可能で農業を始めたい人に対する門戸が開かれている。 フィンランドの産業クラスターは、プロジェクトの立ち上げ時期、成長期、安定期までをも見据ており、まさに至れり尽くせりの支援体制である。 このようなことからアグロポリス鰍ェ取り組んでいるプロジェクトは30〜50件/年あり業績は安定している。 産業クラスターが企業として成り立ち、成長するには難しい問題があるが、フィンランドの産業クラスターはアグロポリス(社)に見られるように、今まさに農業のように種をまき、すでに開花しているものもあるが将来を考えると実を結ぶであろうと期待できるプロジェクトがあり、国や公的機関の支援態勢のもと熱心に取り組んでいて将来明るいものがあると感じた。 今後の発展に期待をしたい。 6.おわりに 北海道の産業クラスターは平成8年に「北海道産業クラスター創造研究会」を設立し、その後各地に産業クラスター研究会が設立され、それぞれを中核として事業化段階に入るなど成果を上げつつある。 北海道の地域経済を活性化するためにも産・学・官が協力して地域の特徴を生かした産業クラスターの誕生に地域の期待は大きくフィンランドの例に見られるように企業の将来まで見据えた総合的支援体制も視野に入れて検討することも必要と考えます。 末筆になりましたが、私達の訪問研修に親切に対応して頂きました関係各位、通訳の宮澤 豊宏氏に感謝申し上げ報告といたします。 |
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