第1分科会 「タウンブランドとしての観光都市」
☆パネリスト
札幌国際大学観光学部教授 越 塚 宗 孝
北海道大学大学院工学研究科助教授 高 野 伸 栄
ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル
中井仁実建築研究所代表取締役・環境デザイン室長 中 井 和 子 ☆コーディネーター 北海道大学大学院経済学研究科教授 内 田 和 男 |
コーディネーター北海道大学大学院経済学研究科教授 内 田 和 男本日の分科会のテーマは、観光・農業・環境(自然)と三つあります。また、小林先生の基調講演の主題である、パターナリズム(温情干渉主義)は、小泉総理の言うところの「民でできることは民で」という主張に対する逆命題であります。民でできないことは公共で、というご主張であったと理解しております。そこには、行政が数の論理ではなく、市場原理の枠を超えるもの、つまり、金銭的には直接的に各個人の利益にならないが、多くの人々に、間接的に公共的なサービスを提供するという合意があり、公共は、経済学でいう外部性の問題に、積極的に関わる必要があると理解させて頂きました。 本日の三つのテーマを改めて見てみますと、農業は国民の基本的な生存に関わるものです。自然環境も、広い意味で国民の持続的生存の問題に深く関わっており、フランスなどでは、農業をきちんと保護していますし、これら2つは、公共が個を超えて積極的に関わる必要がある分野であることがわかります。実際、北海道の農業は、これまで国の食糧基地として、環境では、自然遺産である知床に、国あるいは公共が積極的に関わることが言われております。 これに対して観光は明らかに異なり、市場原理に基づく分野であり、本日のパターナリズムに関連づけることは、極めて難しい部分があると個人的には思っています。観光は、ある面で積極的な商売であり、競争原理を貫かねばならないものだと思います。ところが北海道の観光というとき、何となく公共、市、行政が…というかたちの話題の取り方をすると思います。しかし、先ほど述べた農業や自然環境とは違い、観光産業というかたちで、かなり市場原理において勝たねばならない面があると思います。したがって、それとパターナリズムを関連づけるのは非常に難しいところがあります。もしそれが可能であれば、北海道の大きな持ち味になるとは思っております。 ただ、この点の議論は非常に難しいとは思いますので、より一般的な意味合いで、北海道観光の持ち味は何か、それを引き出すにはどうすればいいかという視点から、パネリストの先生方が、日頃お考えになっておられる専門分野でご発言願います。その後、補足をお願いした上で、フロアからご質問等をお受けしたいと思います。 パネリスト札幌国際大学観光学部教授 越 塚 宗 孝ただ今、内田先生から分科会のテーマについてご説明いただきました。その趣旨にできるだけ近づくように、発言させていただきたいと思います。 第1分科会のテーマは「タウンブランドとしての観光都市」で、北海道観光、観光地、観光都市といった一連の流れの中で、この問題をどう考えていくかについて、若干発言させていただきます。 ブランド価値という言葉が、頻繁に使われるようになりました。例えば、慶応大学の和田教授は製品価値に関して、それは基本価値と便利価値を基盤とした、感覚価値と観念価値であると説明されています。基本価値はご承知のように、製品の基本的な品質、例えば時計であれば、正確に時を刻むここと。あるいは飲み物であれば、安心して飲めることなどであると言われています。一方の便利価値は、消費者が便利に容易に、気分良く購買し使用できる価値である。そして、価格の値ごろ感、あるいは入手の容易さ等をも意味していると言われております。また感覚価値は、楽しさを感じるなど、消費者が五感で感じる価値になります。例えば、商品を包んでいるパッケージや、その商品を売るための広告、あるいはコミュニケーションによって伝達されるものであると思います。観念価値とは、ブランドの使用経験、これから消費者が抱くストーリーやヒストリー、文脈だと言われています。 以上のような製品価値に関する考え方に準拠して、タウンブランド、いわゆる「まちの価値と観光」の問題について考えてみました。ここであらかじめ、本分科会のキーワードになっている「観光都市」という言葉について、若干定義させて頂きたいと思います。ここでは単純に、“観光者に楽しみを提供できるまち”を観光都市と考えることを前提として聞いていただけたらと思っております。 最近話題になっているのは、旭川市の旭山動物園です。ありのままの動物の動きを、間近で見られる点が魅力的だとして、全国的評価を受けています。市場は全国に広がったということが言えます。これはまさに、先ほどの製品価値の理論から言うなら、感覚価値が観光者を誘発した例ではなかろうかと思っております。旅行会社はこぞって旭山動物園を組み入れた、札幌・旭川・美瑛・富良野の周遊ツアーなどを販売するに至っております。旭山動物園の全国的な広がりが、周辺の観光地域等へ波及したという例であります。その原点は、この感覚価値にあったのではないかと思っております。 1967年に旭山動物園は誕生しました。そのとき市役所は市民に、1通の手紙を出したそうです。そこには皆さんの動物園ができました。開園式を行います。たくさんの動物たちがお待ちしています。きっと晴れます。雨なら緑が輝きます、と書かれていたそうです。私は実際に見たわけではなく伝聞ですが、そうした文面の手紙が市民に出されたそうです。これは旭山動物園のヒストリーの一端と理解することができます。そこには、観念価値をうかがうことができるのではないかと思っています。誕生から30年後、1997年に動物園を応援する市民の会が発足しました。市民の会は2005年、NPO法人になりました。こうした市民の支持も、動物園の価値向上に寄与したと考えられます。 五感の視点では、デイケアセンターからの高齢者の来園が増えているそうです。ここに来ると、気難しいお年寄りも、笑顔になるという評価が見られるそうです。結果として、旭山動物園の存在は、旭川のタウンブランドを構成する要素の一つになったと思っております。 もう一つ、道東の例を申し上げます。1977年1月の朝日新聞『天声人語』において紹介された、イギリスのナショナルトラスト運動に、当時の斜里町長が目をつけました。その1ヵ月後には、日本のナショナルトラスト運動の原点となる、知床100m2運動の推進が提唱されました。この運動は、国立公園内の民有地を買い取り、保護することを目的として提唱されました。その時使われたキャッチフレーズは、“知床で夢を買いませんか”でした。自然保護に共感する全国の人々の反響を呼んだわけです。 この当時の考えは、今日、斜里町臨時町議会で可決された、「知床を守り育てるまち宣言」により、広範囲なものとなったわけです。今後、世界自然遺産登録された知床のホストコミュニティの一つである斜里町は、人口1万3,440人ですから、それプラスアルファで、人口63億人の世界自然遺産を、守り育てる段階を目指すことになります。 ここにも先ほど申しました感覚価値と観念価値の組み合わせによる、タウンブランドの向上が見られると思っています。加えて、知床国立公園内では、交通混雑、排気ガス対策のため、車両規制を現在も行っております。自家用車に代わるバスの中で聞こえた、「お母さん、なぜバスに乗るの」「きれいな空気と緑を守るためよ」という親子の会話、これは大変印象的でありました。ブランドの構築には時間がかかります。このような母から子への伝達も、時間の経過とともに、重みを持つのではなかろうかと思っています。旭川市の旭山動物園、そして道東の斜里と世界自然遺産の例を申し上げました。 さて、実用主義における真理という問題があろうかと思います。それは人間生活において、有用な結果をもたらす観念を意味していると言われています。構築すべきタウンブランドも、これに準拠しなければ意味がないであろうと思っております。例えば、札幌市は集客交流都市を標榜しております。重点戦略課題のキーワードは、本日の会議のテーマでもある協働を挙げています。そして、この中で道内各市町村と連携した戦略の発掘・アピール、このための具体的な事業は重要であるという位置付けをしております。 つい最近、フードランド北海道が行われましたが、これを札幌市が支援しています。9月初旬に大通公園で開催された同事業は、延べ35万人の人々が訪れました。数字だけが大事なわけではありませんが、多くの人たちにそうした事業へ理解、反応してもらうことも重要であると思っております。少なくとも延べ35万人の人たちは、数日間に亘って大通公園で楽しい時を過ごしたわけです。特に、協働がテーマであったので、北海道の市町村との連携を事業の中で表現し、特に市町村がブランド化した商品を展示したわけです。例えば厚岸のカキなどが代表的なものですが、こうしたものには、朝早くから列がなされていました。 歴史を振り返ってみますと、さっぽろ雪まつりは、観光都市札幌、特に札幌の冬の価値を高めました。そして、ローカルな市場から全国市場へと広げ、東南アジアからの評価も高めるという役割を果たしてきました。今後、フードランド北海道に代表されるような秋のイベントは、札幌ならびに北海道観光にとっては、重要なイベントであり、秋の価値を高めるという意味では、大事だと思っております。フードランド北海道の事業の中で個別に挙げるなら、札幌広域圏組合が主催した「札幌大通ふるさと市場」は、なかなかの評判でありました。 今後、札幌及び北海道は、アジアを含めた国際市場に乗り出していかねばならず、益々、それぞれの季節の価値、あるいはその方向性に向け、一歩ずつ歩まなければならなりません。そのためには、協働は不可欠なキーワードであろうと思います。 パネリスト北海道大学大学院工学研究科助教授 高 野 伸 栄越塚先生が旭山動物園に触れられました。私は交通が専門ですが、旭山動物園は冬期になると、開園が非常に時間が短く、しかも渋滞になるそうです。バスで2時間かけても、動物園に辿り着けなかった。大分動物園のブランドを下げてしまっていると危機意識をもって、改善に取り組んでいると聞いています。最近は、民間の駐車場がどんどん出来上がり、良くなったという話を聞きます。一方では、先ほどのパターナリズムのお話ではありませんが、駐車場がたくさんでき、客引きが増えるのは、旭山動物園のブランド価値を下げているのか。あるいは、実用性とブランドの問題があろうかと思います。 今日は、観光のネットワークについて、お話したいと思います。観光にもいろいろありますが、今回はそのうちでも、分かりやすい思われる温泉を、観光の一つの資源・対象として考えようと思います。温泉の数は数え方によって異なりますが、JAFから出されている「魅力で選ぶ温泉と宿」という、全国を4分冊に分けて温泉宿を紹介したものがあります。これが使いやすいので、この本から数を取っています。北海道は温泉天国と言われるように、東北6県と比較して、非常にたくさんの温泉があります。北海道には110の温泉があります。この温泉の本には、最近自治体で掘り当てている公営の温泉などは、一部入っていないものもありますが、一応多いということになります。次に続くのが福島で53、秋田32です。これは宿ではなく、温泉の数です。 なるほど、北海道は温泉の数が非常に多いということになりますが、少し見方を変えてみます。工学部出身ですので、数字が出てきますが、何のことはありません。面積で温泉の数を割ってみたという、非常に簡単な話です。これで見ると、北海道は東北6県の中では最下位になります。北海道は広いから、温泉がたくさんある。広さを比較すると、東北に比べて温泉は少ないことになります。つまり、北海道は面積が広大で、それに関わるブランドイメージがいろいろ出てきますが、面積の広さに伴って、温泉や観光スポットがたくさんあるというイメージにつながるわけです。しかし、単に広いからということもあるのではないか。その意味で、北海道の温泉は低密度と言いますか、広い面積の中に分散してあるということになります。 次に、宿の数を見ます。宿といっても、どこまで温泉宿と考えるかはいろいろだと思います。これも先ほどの本の定義を踏まえております。北海道はこの宿の数が218です。温泉数で割ると、一つの温泉宿の平均が約2ということになります。ご承知のように、こういう平均というのはあまり面白くないといいますか、実は登別、定山渓など大きな温泉地にはたくさん宿があり、それ以外には1軒宿というところもあります。一応、平均してものを見ようとすると、北海道は約2個ということになります。 他地域では、秋田も温泉の宝庫ですが、意外に宿の数は小さく1.75、岩手1.52、青森1.44で、有名な温泉がたくさんあっても、1軒宿に近いような温泉が北部にあり、平均すると2軒以下になります。それに対して東北南部は非常に多く、平均すると宮城3.16、福島2.77、山形2.74になります。そういう意味で分類すると、北海道は少数グループになります。1軒宿がメインの地域と、大きく二分できるのではないかと考えます。 つまり、北海道においては、1温泉当たりの宿は少ない。さらに、一つ一つの温泉が遠距離にあり、温泉同士、宿同士の競争が非常に少ない状況にあるのではないかと考えることができます.宮城、福島、山形に温泉宿が多いのは、もともと湯治の文化があり、農閑期になると2週間、1ヵ月と高齢者を中心に湯治に出かけることが年中行事といいますか、一つのスタイルとして残っています。そのため多くの温泉宿が成立しているのだと思います。それに比べると、北海道は宿の数が少ない。つまり、宿同士、あるいは温泉同士の競争があまり多くない状況にあると整理することができます。 少し話を変えて、そのように遠距離に分散し、競争が少ない状況の中で、今日のテーマであるブランドで考えてみます。たまたま先週末も、東北大学の先生と北海道内を歩きましたが、「北海道はいいですね、広大な大地、おいしい食べ物など、北海道ブランドとして価値が非常に高い。」ですよねといわれました。東北の方がおられたら恐縮ですが、東北ブランドというものをあまり聞いたことがありません。また、青森や岩手のように、各県ごとのブランドもあまり聞いたことがありません。それに比べると北海道は、北海道ブランドとして、海外から見ればまだまだでしょうが、日本の中では大きく位置付けられています。その中で、宿1軒できちんとしたブランド価値を昇華し、一つの価値として高めているところもありますが、1軒1軒が北海道ブランドを自分の宿、観光地にどうやって生かすか。大地、自然の美しさなどを商品化するのはなかなか難しいので、安直な面でカニ、イカ、メロンなどの名産品を、北海道ブランドと称しています。山の中の温泉でも無理にカニを出すなどと言われますが、意外に商売の効率としては、手間暇かけてサービスをするより、物販の方が手っ取り早く儲かる面もあるかもしれません。こういうようなブランドになってしまっていると思います。 少ないデータと簡単な分析なのでご理解頂くのは難しいかもしれませんが、北海道は観光の宝庫であると思われているが、それは面積が広いということです。1件1件を見てみると分散していて、他の地域に比べると、一人の旅行者が訪ねて歩くには、ネットワーク的に非常にまばらです。そして隣の温泉や観光スポットとの距離が遠いですから、競争が生まれにくいという状況があります。一方で、北海道ブランドという非常に大きなブランドがあるがために、自分の宿、自分の観光スポットでそのブランドによる商売が、安直に流れている面があるのではないかと思います。 どうすればいいか。一つは、地域連携というか、地域ブランドというかたちで連携を行う。と同時に、機能的連携、例えば池田町、函館、小樽、富良野などのワインが有名になっていますが、果たしてその間に例えばワイナリーをコンセプトにした連携、競争、それらをまとめたかたちで取り組もうとしている動きがあるか。それだけでなく、川下り、登山など、愛好者同士の連携はあるでしょうが、それぞれの自治体、あるいは資源を持っている人たちに、機能的に地域を飛び越えた連携があるのかどうか。これらが複合的になって初めて、北海道ブランド一つ一つの価値を高めることができると思います。 ここで、一つの例として、「シーニック・バイウェイ北海道」を見て頂きたいと思います。これは、美しいツーリング環境の創造を目指すものであり、行政と活動団体と言われている住民、NPO、企業が一緒にツーリング環境を整えていこうということです。例えば支笏洞爺ニセコルート、大雪・富良野ルート、もう一つ東オホーツクがルートになっていますが、本日のテーマでもある行政との協働、地域間交流で見ますと、シーニック・バイウェイは開発局が主導しているものです。これは地域間連携の、一つの新しいかたちになるわけです。それは、いわゆる自治体間の連携ではなく、国道を中心にした連携の仕方です。これはとりもなおさず、開発局という道路行政がイニシアチブを取れるようなかたちで、シーニック・バイウェイができている。今までの地域間連携というと、地域内もしくは自治体の中、あるいは支庁という枠組みの中で行われてきたわけです。シーニック・バイウェイの非常にユニークな点としては、道路という枠組みの中で連携しようとしていることだと考えます。 では、果たして地域連携だけでいいのか。地域連携のデメリットも当然あります。地域というのは、ある意味で平等主義といいますか、そこに加わっている人たちは漏れずに連携しなければならない。非戦略性、非選択性と言いますか、そういうことになるわけです。あるいは、競争している企業が一緒に、呉越同舟で加わらなくてはならず、この連携は自ずから限界があると考えられます。地域的連携は、様々なかたちで行うことが必要だと思いますが、良い面と悪い面があると思います。 これに対して、先ほども述べた機能的連携ですが、地域を飛び越えて連携することをイメージしました。いわゆる地域資源、人、情報を連携すべきものとすれば、相乗効果・連結効果を高めることができる。また一方では、戦略性が非常に必要になります。どこと連携するのか。本日のテーマである行政との協働で言えば、今までは行政は自治体を単位として連携を図ってきた、また支庁という連携は、道庁を主体に行ってきたものだと思います。またシーニック・バイウェイのように、道路を核とした連携があります。行政としてやるべきか否か議論があると思いますが、機能的連携をどうやって実現していくか。 実は、例えば大規模な会社などでは、それぞれの温泉地に宿を持っているなど、機能的連携はなされています。会社としては連携がなされている部分があるが、温泉以外の部分、いろいろな会社が並立している場合、例えばワインなどがそうでしょうし、川下りや登山など、企業間では機能的連携ができない。そういうときには、行政が地域間の機能的な連携を行う必然性があると考えているところです。 北海道の広さや、競争が起き難い状況の中で、地域間連携とともに、複合的・重層的な 連携が、今後の北海道ブランドの質を高めることになると思います。 パネリスト(株)ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル |
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