第3分科会 「持続可能な環境文化都市」
☆パネリスト
札幌学院大学地域社会マネジメント研究科教授 太 田 清 澄
北星学園大学社会福祉学部教授 杉 岡 直 人
札幌市立高等専門学校インダストリアル・デザイン学科教授 國 松 明日香
札幌市市民まちづくり局理事 池 田 捨 成 ☆コーディネーター 北海道大学大学院工学研究科教授 小 林 英 嗣 |
コーディネーター北海道大学大学院工学研究科教授 小 林 英 嗣先ほど、小林先生の基調講演を聞かれ、会場の皆さん、パネリストの方もいろいろ考えを展開されたのではないかと思います。この分科会で議論したいことは、テーマにある持続可能な環境文化都市をめぐり、まず第一に「持続可能な」というのはどういうことか。持続可能な都市づくりや地域づくりを、いろいろな人が具体的な論を進め、世界中の国や都市が動き出していますが、パネリストの方々のお話を聞き、北海道独自の持続可能性を発見していきたいと思います。 もう一つが「環境文化都市」です。環境と文化は、道都・札幌の目標・キーワードだと以前から言われていますが、環境都市でもなく、文化都市でもない。環境・文化都市、文化環境都市でもなく、環境文化都市です。環境文化都市とは何か?パネリストのお話からキーワードをつむぎながら、議論したいと思います。そして、フロアからも具体的な事例等をご発言願いたいと思います。「持続可能な環境文化都市」が、北の北海道で議論され、北海道が世界の中で脚光を浴びるような情報を発信し、皆さんの自治体が着実に展開していくことにつながればと思っております。 まず、パネリストの方に基本的なお話をして頂き、大事なキーワードが提出されると思いますので、それを整理しながら計3ラウンドまで進めたいと思います。それから疑問やご意見を募りたいと思いますので、ご協力をお願いします。 まず、まちづくり都市計画に関して日頃ご発言されている太田先生、人間の行動社会をどのように着実につくっていくか、特に福祉の面からご指導されている杉岡先生、我々の目に見える具体的な環境を意識しながら、アートという側面、作家という立場で全世界をご覧になっている國松先生にお話し頂きます。最後に池田さんに、札幌市の人材育成についてこれからの思いやシナリオなどをご紹介頂きます。では太田先生、1番バッターは必ずヒットを要求されますので、よろしくお願いいたします。 パネリスト札幌学院大学地域社会マネジメント研究科教授 太 田 清 澄私見に近い、もしくは飛躍しすぎと評されるかもしれない理論を含めて、都市サイド、都市計画分野の立場から話をさせて頂きたいと思います。私はこの数年の間、地域・都市の再生について一つのテーマをずっと追い求めていますので、今回もこのテーマを議論の軸に設定して幾つかの話題提供をしていきたいと思います。私が希求している一つのテーマとはサスティナブル・デベロップメントです。地域・都市の再生、何れのケースにおいてもそれを具体化するには、そこに明確な戦略が必要だと思っています。テーマと戦略、それを一体化させている事例を、ここで皆さんに投げかけることにより、テーマと戦略の在り方を皆さん流に解釈して頂き、それぞれの地域・都市や組織における今後の理論の展開や具体策づくりに役立てて頂ければ幸いと思っております。 先ほども小林先生が基調講演の中でも話されたように、アメリカのグローバリズムか、ヨーロッパのサスティナビリティかということが、常に話題となります。私はここ数年間、「北海道の地域・都市再生はヨーロッパのサスティナビリティに基軸を置くサスティナブル・デベロップメントの考え方が必要ではないか」ということをいろいろな機会で発言してきました。機会があれば是非お読み頂きたいのですが、1996年のEUレポートは画期的なものとして評価されています。これまでの「アジェンダ21」の中で謳われていた、環境を重視した地域・都市再生の考え方が大きくシフトしています。つまり環境だけではなく、経済や社会文化・歴史という三つの要因をうまく組み合わさないと、持続可能な都市を成立さとていくことが出来ない。これまでの環境一辺倒だけではない、経済と環境と歴史・文化の三つが複合して、その地域・都市の個性をつくっていくことが、持続可能な地域・都市づくりであるという考え方が、この「1996・EUレポート」において、明解に打ち出されました。現在も恐らく、ヨーロッパ各国の地域・都市再生は、「1996・EUレポート」のこの構造に軸をおいて、幾つかの地域・都市政策に関わるプロジェクトを展開していると思います。 次に戦略についての考察です。ヨーロッパにおける事例において、その戦略の一つとして間違いなく見えてくるのが、官サイド即ち地方政府が明解な都市政策を打ち出していることです。この関連する事例としてフランスのストラスブール、スペインのバルセロナ、オランダにおける公共政策、そしてドイツのルール地方のIBAエムシャーパーク・プロジェクト、今日はこの4つの話をしたいと思います。その中で私なりにも、間違いなく明確に見えてきていることは、小林先生の基調講演にもあったように、行政かもしくは指導者(リーダー)が、先ず明解な都市政策を出している点です。その上で、市民が協働できる場所、関わりやすい場所を示していること、あるいは創り出していることです。例えば、「公共空間の再生」を都市政策の明解な柱にしている事例があります。 これまでほとんど都市政策・都市運営に関心すら持たなかった多くの市民が、個々に指定された具体的な公共空間において、そこに何らかの利害や関わりを持つ特定な市民がいろいろな活動をすることにより、あらためて都市と自分や自分の住む地区との関わりや、都市と自分たちの協働のあり方がどうあるべきかを見出していきます。 身近な要素を素材かつ媒体にして市民を巻き込み、都市再生を図っていくというしたたかな戦略であると思います。 典型的な事例がバルセロナです。「バルセロナモデル」として注目されている事例です。ご存知のように、バルセロナは反フランコの市民軍の拠点であったが故に、フランコが政権を握ると、バルセロナに対する全ての補助金や助成金がカットされました。その結果バルセロナの街は荒廃しきって、広場という広場も、尾篭な話ですが、立小便の場所、麻薬取り引きの場、住民のごみ捨場以外のなにものでもない状況になっていました。要するに、地区全体が外部の人たちは怖くて入れない危険で汚い場所になってしまっていた訳です。全く予算の無いバルセロナの地方政府が、そこを何とか再生するために考えたことは、「公共がごみだけは徹底的に広場から撤去します。あとは民の仕事として、ただそれだけでいいから、この広場の一角にオープンカフェをひとつ開いてほしい。」ということでした。 また、ある広場は、「ごみを全て片付けるから、広場を囲む建物だけはあなた達の手できれいにしてくれ。」というものでした。これに応えた市民は自分らにはペンキを買う金しかないので、専門の職人に頼むのはやめて市民が自らの手でまち建物の壁を、昔のように白く塗り替えた。これが後に「バルセロナモデル」と言われる仕掛けのスタートとなったのです。「バルセロナモデル」のポイントは2つあります。1つ目は「個から全体」という考え方です。つまり先ず出来る小さな運動・実践を積み重ね、これを繰り返すことにより都市全体へ波及させていく手法を採ったことであり、2つ目は「官と民が役割をはっきり分担する意識」の刷り込みを徹底したことです。現在、文字通り世界の観光都市として、国内外から多くの人が集まる都市となっています。 繰り返しますと、ヨーロッパの成功事例の多くは「1996・EUレポート」の骨格でもあるサスティナブル・デベロップメントの考え方を基本軸に置き、これに立脚したしたたかな戦略を実践している点にあるのではないかということを強調したい。 戦略の一つのキーワードになるかもしれませんが、先ずは「公共空間の再生・デザインの附帯」ということを戦略のテーマにして、都市を蘇らせた事例を紹介させてもらいました。 今日は、この様な枠組みを時間の限りご紹介し、各地域・都市の地域・都市再生の参考にして頂ければと思います。 第一バッターでヒットになったか敬遠されたか分かりませんが、今日のテーマに対する皮切りの議論として、先ずは地域・都市政策の潮流を切り口に、少しお話をさせてもらいました。 小林(コーディネータ−) 冒頭申し上げた、持続可能な環境文化都市の、持続可能という部分で、新しいヨーロッパ独自の理念の展開の一つをご紹介して頂き、具体的にどんなところで、どんな方法で展開しているのかという点で、公共空間というキーワードとバルセロナのお話をして頂きました。2回目で、その他のお話を伺えるかと思います。 パネリスト北星学園大学社会福祉学部教授 杉 岡 直 人私からは、「文化運動としての参加、協働社会の創造」ということで話題提供させて頂きます。非常に大きなテーマで、雲を掴むようなところもあります。札幌市のホームページでご覧になった方はご存知だと思いますが、環境文化都市の実現に関して、循環型都市の実現としての自然環境、地球温暖化に関わる問題の解決、また、共生型都市の実現として、良好な水環境の保全する都市の推進その他、自然環境の豊かさを実現するような、自然と人間社会の融合・共生を目指しています。福祉分野の共生はもう少し違う意味で使っていますが、自然との共生という意味での「共生型都市」です。三つ目に、「参加協働型都市」の実現として、環境教育や市民企業団体などの環境保全活動、地球環境保全に向けた国際的連携など、非常に環境を重視した仕組みを提案しています。文化については、あまり明確な整理はなされていません。 実は、「都市の文化」というのは、様々なインフラの整備が取り組まれ、社会的問題の解決が進んできたあとに登場することになるわけです。最後の段階に、都市の政策・目標が、文化の形成にウエイトがかかってくると言われています。つまり、文化度の高さが、都市の成長の大きなゴールになっているとわけです。それは、いわゆる文化の中に、様々な制度や伝統、景観も形成されてきています。景観を守ることも、長い伝統の蓄積が、それを可能にしてきていると言われるわけです。こうした制度や景観は、伝統として形成されるわけですが、伝統というものは、自然に守ったり、黙って生活に取り入れているかといえば、そうでもない。いつも新しい問題に関わって、様々な提案が行われ、伝統もまた見直されます。 しかし、伝統は、基本的に守ろうとする意識がなければ、非常に脆くも崩れていく側面があり、良いものをどう守っていくかという主体的取り組みを、各都市の中で展開しなければならないと思います。それだけ継続的な学習、参加が求められているという意味で、私は文化運動として、参加協働社会を考えなければならないと思います。 どんな「参加協働社会」を目指そうとしてきているのか。これを札幌市に引き付け、少しステージを整理してみたいと思います。市民参加の歴史的変化ですが、最初は行政に要望を述べる、いわゆる団体の要望として意見の反映を図り、利害の実現を図るという段階があると思います。第二段階としては、行政の計画に意見を述べることで、関係される方々も多いと思いますが、委員会や市議会、○○会議、公聴会、あるいはパブリックコメントの中で、行政の計画に意見を述べる機会は様々に用意されています。第三段階は行政の事業の評価で、どんな事業が市民のため、あるいは札幌市の発展のために効果的なのか。または無駄な事業はないのかなどと、事業の評価に関わる活動があります。それは見直しや評価委員会として、専門家によって行われる評価もあるし、一般市民も参加して評価を議論する機会も用意されるようになりました。 しかし、これは、様々な行政計画に関する一つの重要な関わりですが、最近になって、市民がより具体的な活動に参加する兆しも出てきています。まちづくりの事業を提案する活動、例えば公園を作ったり、地域に必要なサービスを自分たちが考えようと自主的に取り組み、活動している方々も増えています。事業に参加する中で、実は環境問題や地域の景観、あるいは安全、安心をつくりだす活動が生み出されてきていると思います。そういうものは、非常に労力も必要で、誰かが強制的にリーダーシップをとってさせるというのではなく、住民自身が自主的に関われる枠組みなり、参加の機会がスムーズに動くような仕掛けが必要になってくると思います。 札幌市でこうした活動がどのように動いてきたか見てみると、最近はまちづくりセンターが話題になってきていますが、従来は社会福祉協議会と連合町内会で様々に活動してきたものもあるわけです。それがここ数年前から、福祉のまち推進センターが形成され、一般の地域住民が連合町内会単位で、いろいろな活動に取り組むようになり、具体的なサービスの提供も始まります。それが連絡所で、行政機関も福祉のまち推進センターのサポートを行うように変わってきています。2004年から、まちづくりセンターという名称が使われるようになり、市民活動の拠点となることが期待されるようになりました。さらにコミュニティネットワークを含め、地域の活動の推進を図ることになりました。 これから本格化するまちづくりの活動の中に、どういう運動を考えていくのかということで、3点ほどまとめさせて頂きます。まず1点は、大きく言えば市民事業という名のもとの、市民の自主的な活動に合う様々な活動が始まるわけですが、これに加えて、コミュニティビジネスや、福祉NPOのような事業に取り組む活動が進んできています。一方で、自治の問題に関して、行政の政策についてチェック機能をどのように組み立てていくのか。様々な自主的な市民活動の展開と、追跡が議論されるようになると思います。 2点目は、第三の分権化といわれている議論にもありますが、まちづくりセンターそのものは、人口2万人近い規模で組織されていきますが、市民参加型の事業を地域社会に組み込んでいくことを考えると、市町村合併における地域自治組織という言われ方もしますが、自治組織の活動に合わせて推進できる体制をつくるのか。つまり、より包括的なまちづくりの活動の受け皿として、どういう体制が考えられていくのかがポイントになると思います。 3点目は、町内会というものが、伝統的に住民の様々な問題解決に取り組んできています。情報伝達や相互協力の活動など、近隣の生活の改善という意味では、重要な活動をしていますが、これに加えて、機能集団としてのNPO、つまり町内会も目的を持った活動をずいぶん始めていますが、これからの介護保険の制度改革に伴い、地域に根ざした様々な住民活動を進める状況になってきています。これに関わる小規模・多機能型の市民参加活動の枠組みが問われてくると思われます。そういう意味で、文化運動としての活動が、大きく市民参加という枠組みの中で、議論される時代を迎えていると思っております。 小林(コーディネータ−) 先ほど太田さんがEUレポートの話題を出されました。それが96年ですが、その前に92年のリオサミットにおける宣言・アジェンダ21があり、日本はこれに基づいて、環境をベースにした国や自治体の環境都市政策が展開しています。札幌も、環境をベースに政策が展開されています。文化という言葉を意識しながら、文化運動というお話が出されました。住民の各地域での生活、これからの生活の質をベースにしながら、参加という理念のもとで、まちづくりセンターもその一つの重要なポジションを担い、文化運動として環境文化へ膨らんでいくのではないかという方向性と、現在の仕組みについてお話し頂けたと思います。 パネリスト札幌市立高等専門学校 |
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