テ ー マ 解 説

『都市経済的自立とパターナリズム』

北海道都市地域学会
企画委員長 平澤 亨輔

 このたびは、第30回北海道都市問題会議にご参加いただき、誠に有り難うございます。
 今回のテーマは、「経済的自立とパターナリズム」であります。これは言うまでもないことですが、ここ数年間の北海道経済をめぐる情勢は非常に厳しくなっています。皆様もご存知のように、公共事業の減少、三位一体改革による地方交付税の削減、また、徐々に進みつつある少子高齢化が、北海道経済を悪化させてきたという印象を持ちます。
 データを見ますと、例えば2002年から2003年の年平均失業率では、地域別に見ると多くの地域の失業率は改善しています。ところが北海道だけは失業率が上昇し、6.7%と、地域別で見ると最も高い率になっております。今現在、その状況は改善しつつありますが、未だ厳しい状況が続いているというのが実感です。この状況を北海道の都市に当てはめて考えてみますと、やはり都市も厳しい状況にあると思います。私も昨年度、幾つかの地方都市を回っていろいろ話を聞くと、非常に厳しい状況であるという話をよく聞きました。
 北海道の中心である札幌市についてみると、実は札幌市も厳しい状況です。最近は少し変わってきているかもしれませんが、事業所企業統計の1996年から2001年を見ると、従業者数が減少しています。その減少率も小さいものではなく、7.8%と非常に大きい。大企業の支店でリストラがおこなわれたため、苦しくなった面もあると思います。その意味で、北海道の都市の経済状況は依然として厳しい状況にあります。その中で、経済的自立という問題は非常に重要なテーマではないかと、今回はこれをテーマとして取り上げたわけです。そしてそれを、観光都市、農業都市、環境文化都市という三つの側面から取り上げてみようということであります。
 様々なパネラーの方に参加していただきます。観光ではタウンブランドということで議論されますが、景観や交通面からの話題提供もあります。農業都市は昨年取り上げられたテーマですが、本年度は食文化の側面から取り上げてみます。また、環境文化都市は、芸術や環境文化も非常に重要な側面であり、福祉の側面も加えながら議論していただくことになっております。これらの分科会は三つに分かれていますが、全く独立したものではなく、互いに重なり合い部分があると考えられます。景観や文化などは、観光そして環境文化という側面から関係しますし、食と観光は、農業都市と重なり合うと思います。また、環境という側面は、農業都市にとっても非常に重要であろうと考えられます。そういう都市が個々にあるのではなく、都市間の交流や連携、農村と都市の連携という側面を考えながら議論していただきたいと思います。
 また、もう一つのテーマであるパターナリズムです。我々の経済は、経済学で言えば市場と国家という取り上げられ方があります。最近は福祉などの側面から、例えばNPOやコミュニティなども加え、三つの要素を重ね合わせて考えていく面があると思います。今回は、そのうちの一つ、行政の役割について念頭に置き議論します。現在の日本は、市場主義が強く、効率性重視で、その結果の地域政策が少し変わってきている気がします。これとよく似た時代に、イギリスのサッチャー時代があります。私が今大学で講義に使っているテキストは、アームストロングとテーラーという方が著者ですが、そこでもその時代のことに少し触れていました。やはり地方への支出の削減など、地域政策の内容が変わってきたという話があります。しかし、地域政策はなくならなかったと言っています。地域政策はその後も続いたということです。やはり、地域における行政の役割は非常に重要だということです。
 今回は、行政の役割を取り上げるとき、メインテーマでパターナリズムという言葉を使っています。サブテーマでは、行政との協働という言葉を使っています。行政との協働については、パートナーシップという言葉が使われているように、非常に馴染み深い言葉だと思います。これに対してパターナリズムは、あまり聞き慣れない言葉ですが、温情主義と訳されます。これは政府が、行政や個人よりも最善なものを知っており、政府がもっと市場に積極的に介入すべきだという考え方を述べています。パターナリズムという言葉は、協働という言葉よりも、さらに一歩踏み込み、行政が市民を先導し、リーダーシップを持って積極的に市場に介入することを念頭に置いた概念です。
 今回は、基調講演で小林先生から、行政の役割という面から問題提起をしていただきたいと思います。ただ、行政の役割にはいろいろ議論があると思いますので、三つの分科会で一層の議論が行われれば幸いであると思います。以上簡単ですが、テーマ解説を終わります。


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